【交差点】“魔剣”の秘密


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 伝説の名剣「干将」は、夫である刀工の窮地を見かねた妻が、炉に身を投げて生まれたという伝説がある。刀剣にまつわる伝説もさまざまだが、“鋳造に人骨を使う”というのは、実は伝説ではない。
 5年前、台湾の李安監督が製作し、大ヒットした武侠映画「グリーン・デスティニー」。この名剣「青冥剣」にまつわる物語をよりリアルに演出するため、監督は“現代の名工”郭常喜(60)に、剣の制作を依頼している。その鋳造過程で、人骨が使われているのだ。
 祖父からの家伝という鋳造法は、宗教儀式に使う剣では、それほど珍しい製法ではなかった。骨に含まれるリンとカルシウムが不純物を取り除き、鋼の純度を高めるという、科学的根拠もある。が、何より重要なのは、剣に“魔力”を持たせるために欠かせない儀式としての意義だ。
 遺棄された墓から遺骨を集め、占って適性を測る。骨の“霊”はやがて剣に宿り、剣の主を守るのだという。映画を機に生まれた現代の“魔剣”「青冥剣」。現在も高雄県にある郭常喜兵器文物館の目玉として、常時展示されている。
 (渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)