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「最後まで油断せず」 1人の出場枠 獲得へ 重量挙げ男子73キロ級・宮本昌典<沖縄からパリへ 五輪選考大詰め>1の続き


「最後まで油断せず」 1人の出場枠 獲得へ 重量挙げ男子73キロ級・宮本昌典<沖縄からパリへ 五輪選考大詰め>1の続き  宮本 昌典
この記事を書いた人 Avatar photo 古川 峻

 「東京」の悔し涙越え、集大成へ から続く>>

 重量挙げ男子73キロ級の宮本昌典(沖縄工高―東京国際大出、同大職)が4日、五輪出場を懸けてワールドカップに挑む。選考レースは対象大会のこれまでの最高記録が参照される。宮本は昨年のアジア選手権でトータル344キロを出し、五輪ランキング4位につく。ワールドカップ終了時点で10位以内であれば五輪出場が確定する。

 この階級はランク1位を除き、上位陣の実力が伯仲している。だからこそ宮本が五輪で表彰台に登るチャンスは十分にある。「メダルを取ることしか考えていない」。成し遂げれば男子としては1984年のロス五輪以来になる。

 東京五輪ではメダル獲得も期待されていた。だが、夢の舞台で気持ちが空回りし、7位に終わった。悔し涙を流したが、その日から目線はパリを向いていた。「当時は記録は伸びていたけど、勢いまかせだった」。持てる力を遺憾なく発揮できるか―。五輪の切符は、この困難な挑戦に懸かっている。

 鍵を握るのが昨年5月のアジア選手権の経験だ。国際大会で悲願の初優勝を果たし、選考レーストップ(当時)に立った。だが「達成感よりも学びの方が大きかった」という。東京五輪の頃と異なり、「空回りせず、自分の試合ができた」。平常心を保ちつつ全力を出す冷静な戦い方ができた。

練習に励む男子73キロ級の宮本昌典(右)と様子を見つめるライバルの近内三孝=1月9日、国頭村

 冬季のトレーニングが充実し、うまく大会の時期とかみ合った。弱点の足腰の強化のため回数をこなすスクワットなど持久系の練習に力を入れた。試技の時は体の軸やスピードなどを一本ずつ意識した。「練習がみるみる体に染みていく実感があった」。同じ重さでも、以前よりバーベルが軽く感じた。その状態でアジア選手権に臨んだ。

 昨年9月の世界選手権は8位だったが、既に五輪出場圏内と見込んだ成績を出していたため、無理せず終えることに注力した。ジャークの最終試技を成功させていれば表彰台に登れたことも確認した。「見えているのは五輪だけ。段階を踏んでいる」とぶれていない。

 ただし、出場は同階級で1カ国1人のみという制約があり、国内にはライバル、近内三孝がいる。2人は同じ階級で戦っていたが、近内は東京五輪の時に階級を下げた67キロ級で急成長し7位だった。再び同階級で出場枠を争うことになった近内は、五輪切符獲得の最後のチャンスとしてワールドカップを位置づける。

 1月に国頭村で行われた代表合宿では、宮本の隣で近内が淡々と練習に汗を流した。友人同士という109キロ超級の知念光亮と村上英士朗がよく談笑を交わしていたのに対し、宮本と近内は時折、互いの練習を見詰める程度だった。宮本は「最後まで油断せず、上の記録で選考を乗り越えるだけだ」と気を引き締める。

 長年戦ってきたのは、自らが持つ日本記録だ。昨年のアジア選手権はジャーク191キロで自らの日本記録を更新した。27歳。「実力と経験値を含めてそろそろ熟成させる時期に来ている」。宮本の視線は、選考レースではなく集大成の五輪の表彰台に向けられている。

 (古川峻)


 みやもと・まさのり 1997年2月3日生まれ。那覇市出身。松城中―沖縄工高―東京国際大出、同大職。64年東京、68年メキシコ両五輪で金メダルの三宅義信氏を師とする。


 パリ五輪の日本代表を決める選考レースが熱を帯びている。重量挙げはワールドカップが開催されており、終了後の五輪ランキング10位以上が代表に確定する。カヌー・スプリントは18日開幕のアジア選手権で2位以上、レスリングは19日に始まるアジア予選の2位以上が五輪への出場権を獲得する。各競技で選考が大詰めを迎える中、県勢アスリートの取り組みを紹介する。