カヌー・スプリントのパリ五輪予選を兼ねたアジア選手権最終日は21日、東京・海の森水上競技場で決勝が行われ、男子はカヤックシングル1000メートルの青木瑞樹(自衛隊)が5位、カナディアンシングル1000メートルの當銘孝仁(沖縄水産高―大正大出、アーネスト)が8位でともに五輪出場はならなかった。當銘の2大会連続での五輪出場はかなわなかった。
女子カナディアンシングル200メートルの小林実央(自衛隊)は7位に終わり、日本勢はペアを含む全種目で五輪出場を逃した。
シングル種目は2位までが五輪出場枠を獲得し、日本カヌー連盟の規定により獲得した選手が代表になると決まっていた。
五輪絶たれ引退示唆 風波の変化に対応できず
カヌーにしばらくへたり込んでいた。目はサングラスで隠れていたが、當銘孝仁は口を開けて泣いていた。試合後、記者団の前に現れた時は目を赤く腫らし、最初に言った。「単純に悔しい。あんまりこういうことはないんですけど、訳も分からずに涙が出てきた」。目標のパリ五輪への道が絶たれた。
スタートから異変は感じた。「船が走っていなかった」。前日と逆方向に波が寄せ、追い風が向かい風に変わっていた。悪い流れを後半にも引きずった。残り250メートル付近、スパートを仕掛ける他の選手にどんどん引き離された。「心を折らず慌てずに対応しようとしたけど、できなかった」。疲労感が押し寄せ、体が重く感じた。
「最高の状態で臨めた」と持てる力は出し尽くした。体重と筋力量のバランス、平常時の脈拍、船の選択など細部にわたってこの日に帳尻を合わせてきた。「プロとして期間内に結果を出すことが大事。身を引くのが適切なタイミングかな」と引退を示唆した。今後、スポンサーなどに意向を伝えるつもりだ。
資金など日本の環境に課題を感じ、東京五輪後はプロに転じた。海外で練習を積み、「若い世代のためにも選択肢を増やしたかった。後に続いてほしい」と身を持って示した。
高校時代、アルバイト先の先輩に誘われて偶然始めた競技。「幸せな競技人生を送らせてもらった。(プロとして)こういう生活をした選手はいない」。濃いひげの間から笑みがこぼれた。
(古川峻)