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玉城知事「人権の侵害」を国際社会に訴え 日本政府「国内問題化」に躍起 沖縄が国際社会へ伝えた意義と展望とは<沖縄の訴えの波紋・知事国連訪問>上


玉城知事「人権の侵害」を国際社会に訴え 日本政府「国内問題化」に躍起 沖縄が国際社会へ伝えた意義と展望とは<沖縄の訴えの波紋・知事国連訪問>上 国連人権理事会の会合で、「平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況を世界中から関心を持って見てほしい」と訴える玉城デニー知事=18日午後5時半ごろ(日本時間19日午前0時半ごろ)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「人権は全ての人の関心事だ。玉城知事には国際社会にそれを訴える役割がある」。玉城デニー知事の国連人権理事会でのスピーチを聞いた、国際秩序に関する独立専門家のリビングストーン・サワンヤナ氏は、国際社会の場で地方自治体の長が発言することの意義を肯定した。同じ国の知事と政府代表部が人権を巡り意見を戦わせる展開は、沖縄と政府の間にある明確な温度差を浮き彫りにした。


 一連の国連訪問で、玉城知事は米軍基地が沖縄に集中している「異常な状況」(玉城知事)の中、民意に反して強行される名護市辺野古の新基地建設を国際社会に「人権の侵害」と発信した。政府代表部は「差別的な意図に基づくものではない」とし、人権問題ではないと反論した。県幹部は「国内の政治問題に封じ込める意図があるのだろう」と指摘した。


 翁長雄志前知事が2015年に国連で「沖縄の人々の人権と自己決定権がないがしろにされている」と訴えてから8年。新基地建設反対が7割を超えた19年の県民投票や、飲み水の汚染という全ての人に関わる問題にもかかわらず基地内の立ち入り検査が認められていない有機フッ素化合物(PFAS)問題など、玉城知事はスピーチやサイドイベントで新たな問題点を含めて国際社会に訴えた。


 スピーチに対して政府代表部の塩田崇弘氏は「政府は県民投票の結果を重く受け止める」としたものの、新基地建設について「日米で合意した沖縄での影響緩和を速やかに実現するため引き続き全力を尽くしていく」と国際社会でも従来の“ゼロ回答”に終始した。


 「日本政府が県民のさまざまな思いを受けて米側と協議を進めていれば、私はここに来る必要がない」。玉城知事は18日の会見で、政府の反論についてため息交じりに話した。

国連人権理事会でのスピーチを終えた玉城デニー知事に取材するメディアら=18日午後(日本時間19日午前)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部

 18日、スピーチ予定時間の約2時間半前に議場を訪れた玉城知事は、緊張感の漂う硬い表情で会場を確認した。会合は静かに進み、各国政府の代表やNGOが発言。玉城知事の順番が近づくと、日本メディアを中心に発言者席の近くに多くのカメラが構えられた。「スピーチするのは誰なのか」とスタッフに尋ねる人もいた。

 「国土の0・6%に過ぎない沖縄に全国の米軍専用施設面積の70・3%が集中している」。玉城知事は、辺野古新基地建設が過剰負担にあえぐ沖縄の人権に関わる問題だと力説した。


 玉城知事のスピーチから約20分後、日本政府代表部の塩田崇弘氏が「沖縄における米軍の駐留は、地政学的な理由と日本の安全保障上の必要性に基づいており、差別的な意図に基づくものではない」と発言。基地問題が人権に直結するとの主張を真っ向から否定した。
木原稔防衛相もスピーチ後の19日の会見で、直接の言及を避けた上で「辺野古移設が唯一の解決策だという政府の方針に基づき、これからも着実に工事を進めていきたい」と従来の政府見解を繰り返した。


 一方、日本政府が繰り返さなかったことがある。2015年に翁長雄志氏がスピーチした際、日本政府は負担軽減とセットで沖縄の経済振興に注力している主張したが、「人権侵害は経済振興では軽減されない」と批判を受けた。


 今回は経済振興には触れず、普天間飛行場の危険性除去の必要性を前面に押し出した。日本政府として沖縄の安全のために真摯(しんし)に取り組む姿勢を強調した格好だ。


 しかし、普天間飛行場の返還は、防衛省の計画でも最短で辺野古の代替施設の運用が始まる12年後とされる。ある県関係者は「普天間の一日も早い危険性の除去と言いながら、何年必要なのか。軟弱地盤で完成するかどうかも見通せない計画を、国際社会に強弁するのはおかしい」と批判した。


 玉城知事はサイドイベントで、第2次世界大戦後の強制接収で米軍基地が造られたことや、さらに日本本土で米軍基地が米統治下の沖縄に移転したことで現在の過剰な集中につながった歴史的経緯を説明。事件・事故や騒音、環境問題などさまざまな人権侵害を受けていると強調した。

 「沖縄だけの問題ではない。人権や環境、民主主義といった普遍的な問題だ」  (沖田有吾)


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 玉城デニー知事は18日から21日にかけて、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた国連人権理事会に出席し、スピーチやサイドイベントなどを通じて、米軍基地の集中による人権侵害を訴えた。国際社会へ伝えた意義と展望を追う。