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営利と社会貢献 徳を残して財を残さず 野崎聖子(うむやす法律会計事務所代表)<女性たち発・うちなー語らな>


営利と社会貢献 徳を残して財を残さず 野崎聖子(うむやす法律会計事務所代表)<女性たち発・うちなー語らな> 野崎聖子
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 NHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとなった牧野富太郎博士にゆかりのある人物が沖縄にもいる。教員や県会議員を歴任し、建材事業を手掛けた故金城三郎氏である。東京都高等師範学校博物科を卒業した金城氏は、牧野博士らと植物採取を共にし、沖縄に戻った後も仕事のかたわら植物の研究を続け、沖縄で採取した植物を牧野博士へ送るなどした。

 その三郎氏の一人娘が故金城キク氏である。キク氏は、大学在学中に三郎氏が他界したため学業を断念して建材商の家業を継いだが、商いの経験も全くない二十歳そこそこの女性である。昭和の初期であり、その苦労は想像に難くない。懸命に働いて店を繁盛させたが、沖縄戦で店は跡形もなく破壊された。戦後、キク氏はいち早く事業を再開し、合資会社金城商会(現株式会社金城キク商会)を設立。戦後復興期における沖縄の建材需要に応えるべく東奔西走した。経営手腕を発揮したキク氏は、事業を拡大させ、大きな収益を上げるに至った。

 しかし収益拡大だけがキク氏の目的ではなかった。キク氏のすごいところはここからである。

 1961年(昭和36年)、キク氏は、企業経営で得た利益を社会貢献に用いるために財団法人金城報恩会を設立し、育児と仕事の両立に苦労しながら働く母親たちを助けるために、那覇市内に二つの保育園(みやぎ原保育園、わかさ保育園)を開設した。その後も、沖縄県出身の女子学生のために東京都内に女子寮を開設し、琉球大学などさまざまな団体や施設へ寄付・寄贈をし、遺言により軽費老人ホームを設置するなど、多額の私財を投じて社会福祉事業などに貢献した。

 このようなキク氏の活動の背景には、父三郎氏からの「徳を残して財を残さず」との教え、報恩の精神があった。父の教えを受け継ぎ、実践したのである。

 企業の本質的特徴は、事業によって利益を上げてこれを分配すること、すなわち「営利」である。高度経済成長期やバブル経済期には利潤追求が目立ち、利益を追い求めることに最大の価値を置いていた企業がさまざまな社会問題を引き起こした。その反省からか昨今の企業では利益偏重傾向が見直され、パーパス経営、ESG経営、ダイバーシティ&インクルージョンなどといった言葉が並ぶ。働く側も企業活動に社会的意義を求めることが増えている。

 もっとも、目新しい言葉を並べずとも、長く続く企業はそれぞれに哲学を持っており、私も仕事を通じて徳の高い経営者に出会うことは多い。経済活動を離れても、自分なりの哲学を持って生きている人はカッコイイ。

 営利とのバランス―。金城三郎、キク父娘の生きる姿勢から学ぶものは大きい。

うむやす法律会計事務所代表
野崎聖子

 のざき・せいこ 1974年、宮古島市出身。2002年弁護士登録。06年に沖縄弁護士会に入会し、13年より現うむやす法律会計事務所代表。主に企業法務、一般民事・家事事件に従事し、沖縄県収用委員会委員、那覇市男女共同参画会議会長、自治体の顧問などを担当。現在、サンエー社外取締役・沖縄電力社外取締役。