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政権、杉田議員を放任 保守離反警戒、差別に甘く アイヌ民族巡る「人権侵犯」


政権、杉田議員を放任 保守離反警戒、差別に甘く アイヌ民族巡る「人権侵犯」 杉田氏投稿問題を巡る関係図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田政権は、差別的投稿が問題化した自民党の杉田水脈衆院議員をとがめない考えだ。アイヌ民族に向けた杉田氏の投稿を、札幌法務局は「人権侵犯」と認定し、発言に注意するよう「啓発」した。だが、杉田氏を批判する声は政権内に広がらない。透けるのは、愛国保守をアピールする杉田氏に好意的な保守層を刺激すれば、選挙でマイナスになるとの計算だ。レイシズムに対する政権の甘い体質が問われる。 (6面に関連)
 「残念だと思う」。9月26日、自民党の茂木敏充幹事長は記者会見で、投稿への受け止めを聞かれてこう述べた一方、杉田氏に反省や謝罪を求める言葉は出さなかった。3日後の29日に自民は、公の場で説明せず沈黙を保つ杉田氏を党環境部会長代理に起用する人事を決定。不問に付す姿勢を鮮明にした。
 人権侵犯認定について、政府中枢は静観する構えだ。「関係者のプライバシーに関わる事柄であるため、答えは差し控える」(松野博一官房長官)と口を閉ざす。
 政権にはレイシズムへの関心の低さがうかがえる。政府筋は「杉田氏は刑事被告人ではない。大騒ぎする話だろうか」と受け流す。人権侵犯認定が報じられたのは9月20日。翌21日、杉田氏が所属する安倍派の定例会合が開かれたが「話題にならなかった」(塩谷立座長)。
 むしろ政権内には、杉田氏に厳しい態度で臨めば保守層の政権離れを誘いかねないとの警戒感が漂う。自民の閣僚経験者は「安倍晋三元首相と比べて保守色が薄い岸田文雄首相に対し、右寄りの支持者は不満を募らせている。杉田氏への対応を間違えれば保守票が逃げていく」と分析する。
 人権侵犯と認定されたのは、杉田氏が落選中だった2016年にブログに書き込んだ、国連女性差別撤廃委員会の参加者に関する投稿。「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」と記した。
 事実が明るみに出たのは、杉田氏が総務政務官だった昨年11月末。首相は当時の参院予算委員会で、投稿を「内閣の一員になる前の言動だ」とかわし、野党の更迭要求を拒否した経緯がある。翌12月、別の閣僚更迭に合わせ政務官を交代させた。
 焦点は、自民が次期衆院選で杉田氏を公認するかどうかだ。杉田氏はこれまでも、性的少数者を「生産性がない」と称するなど、差別的言動を繰り返してきた。それでもなお、杉田氏をかばう声は党内にくすぶる。
 インターネット上には、杉田氏に便乗したヘイトスピーチも目に付く。主に、アイヌ差別に反対する在日コリアンを標的にしている。「人権を騒ぎ立て、日本人からカネをむしり取ろうとしている」などと憎悪をあおり杉田氏ら保守系議員に声援を送る書き込みが絶えない。危険なレイシズムが国政に影を落とす。
杉田水脈氏
 レイシズム 人種や民族の間にはおのずと優劣の差があり、劣った側を支配したり排除したりするのはやむを得ないとする考え方。英語で「RACISM」。「人種差別主義」などと訳す。意識せず内面化している人が多いと指摘される。愛国世論と結び付きやすい。恐怖心をあおるデマ、陰湿なヘイトスピーチ、暴力を伴うヘイトクライムを誘発する。