<金口木舌>斧鉞を民に振り下ろすな


社会
<金口木舌>斧鉞を民に振り下ろすな
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 「眼無王侯、手有斧鉞」。目は王侯になく、手には悪を正すための斧(おの)と鉞(まさかり)を持つ。明治時代、萬朝報を創刊し、権力者のスキャンダルを暴いた黒岩涙香がモットーとした

▼水滸伝に由来するとされるが、「公」に関わる全ての人が肝に銘じるべき言葉だ。言論にせよ公権力にせよ、手の斧鉞(ふえつ)は弱い民を救うためにあるはずだ
▼その斧鉞が民に振り下ろされている。パレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスの襲撃に端を発した事態は合計で2千人以上の死者を出し、なお拡大している。イスラエルは大規模空爆に加え地上侵攻も辞さない構えで、ハマスは拉致した人質の殺害を警告する
▼民間人を狙ったハマスの行為は一切正当化できない。それでも、ガザを長年封鎖し「天井のない監獄」とさえ呼ばれる貧困状態を強制してきたイスラエルと、見過ごしてきた国際社会の責任もまた直視する必要がある
▼複雑な歴史を歩んできた双方。それぞれの「正義」があるのだろう。それを理由に斧鉞を振り回し、無辜(むこ)の民を犠牲にする戦の果てに勝者はいない。