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幻の「減税解散」 財源曖昧、世論冷淡 首相「選挙の顔」に陰り 起死回生 誤算 荒波


幻の「減税解散」 財源曖昧、世論冷淡 首相「選挙の顔」に陰り 起死回生 誤算 荒波 想定される主な政治日程
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

記者団の取材に応じる岸田首相=9日午前、首相官邸
 岸田文雄首相が減税を掲げて、年内に衆院解散に打って出るシナリオは幻に終わった。ひのき舞台となった5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)以降、勝負どころを模索し続けたものの、問題が重なり内閣支持率は低迷。切り札の減税カードは世論の不興を買い、じり貧に陥る。「選挙の顔」として陰りが見える中、「伝家の宝刀」は一体いつ抜けるのか―。展望は描けない。 (1面に関連)
 「解散するなんて言っていない。経済対策に集中したい」
 9日午前、自民党本部。首相は、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長ら幹部5人との会談で、おもむろに切り出した。出席者の一人は「年内の解散はない」と受け止めた。
 解散を巡りポーカーフェースを決め込む首相だが、宝刀を抜くタイミングを虎視眈々(たんたん)とうかがっていた。通常国会閉会を控えた6月13日には「諸般の情勢を総合して判断する」と発言。自ら「解散風」を吹かせて野党を浮足立たせ、重要法案の成立にこぎ着けた「成功体験」(官邸筋)がある。
 ただ、政務担当秘書官だった長男の不祥事やマイナンバーカードを巡るトラブル、物価高が足を引っ張った。そんな困難から抜け出す「起死回生の秘策」(首相周辺)として浮上したのが減税措置だ。首相は9月23日、松野博一官房長官ら限られたメンバーを公邸に呼び、構想を練り始めた。
 そして臨時国会開会を控えた10月初旬、首相側近が公明党の支持母体・創価学会の幹部に年内の「減税解散」の可能性をささやく。学会は11日の幹部会合で次期衆院選の態勢強化を確認。「ギアチェンジ」(関係筋)して活動を活発化させた。
 だが誤算が生じる。首相は減税の意義に関し「30年続いたデフレから脱却する千載一遇のチャンス」と説いたが、防衛費増額の安定財源を確保する増税の時期は曖昧にしたまま。野党は「偽装減税」「増税前の大盤振る舞い」と批判し、世論は「選挙目当て」と冷ややかな視線を向けた。共同通信の今月の世論調査で、岸田内閣の支持率は28・3%と過去最低を更新した。
 首相周辺は「期待感が生まれず、話がおかしな方向に流れた」と悔やむ。10月末で衆院議員任期4年の折り返しを迎え、解散はいつあってもおかしくない―。そんな観測が与野党に絶えない中、首相サイドは「打ち消さないと収拾がつかなくなる」と判断。首相は麻生氏らとの会談で、経済を最優先し政権運営に取り組む考えを伝えた。
 解散断念を受け、自民内では「今断行すれば、自民の議席が過半数を割り込むことはない。チャンスを逃した」(幹部)と首相の決断力を疑問視する声が静かに広がる。政権浮揚の兆しが見えない中、閣僚経験者は「首相の解散権行使は厳しさを増し、ポスト岸田を求める意見が次第に強まるだろう」と踏む。
 首相の窮状を見透かすかのように、非主流派の菅義偉前首相、二階俊博元幹事長らは9日夜、執行部の森山氏を交えて東京都内で会食した。首相に近いベテラン議員は「岸田降ろしに向けた腹合わせか」と勘ぐる。
 総裁派閥・岸田派を預かる林芳正座長は9日昼の派閥会合で、結束を呼びかけた。「相当な荒波が予想されるが、『岸田丸』を支える。乗り切らねばならない」