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国の指示権拡充 地方、乱発懸念「特例に」 政府「国民の命守るため」 不可能 特例


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府の地方制度調査会(地制調)の答申案がまとまり、自治体に対する国の指示権を拡充することになった。政府側は「国民の命を守るために必要」と強調。自治体側も国への協力は必要として真っ向からは反対しないものの、新型コロナウイルス禍での政府対応が的確ではなかったとして、必要性を疑問視する声がくすぶる。 (1面に関連)
 政府が指示権拡充の必要性を説明するのに挙げているのは、横浜港に停泊したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で2020年2月に判明した集団感染だ。
 当時の感染症法では、患者を指定の医療機関に移送するのは発生場所である横浜市の役割だった。700人超の患者を市だけで調整、移送するのはほぼ不可能に近い。国は「協力」という形で調整に乗り出したが、周辺自治体に患者受け入れを指示できれば、より迅速な対応ができたはずだとしている。
 20年春には、感染者の急増により、保健所を設置する市区だけでは病床の配分が追い付かなくなり、国の要請で都道府県が入院調整の役割を担うことになった。これも個別法に規定がないため、指示はできなかった。
 総務省の幹部は、法律が想定しない事態が起きると国の役割がはっきりせず、自治体と連携できなくなると説明。「国民の命を守るために指示権拡充は必要」と力説する。
 与党関係者も「コロナでは、地方側からも国が統制しろという声があった」との認識だ。
 コロナで行政が混乱したとして、岸田文雄首相が地制調に見直しを諮問したのは22年1月。答申は事務局の総務省がたたき台を作成し、委員の意見を聞きながら修正を重ねていく。
 多くの委員がこだわったのは国と自治体は対等という地方自治の原則だ。会合では「指示権の拡充は、あくまで特例として規定すべきだ」との意見が相次ぎ、答申案に反映された。
 自治体も声を上げた。全国市長会長の立谷秀清福島県相馬市長は「東日本大震災では国から情報提供を過剰に求められた」と述べ、指示の乱発を懸念。
 全国知事会前会長の平井伸治鳥取県知事は「コロナでは国から見えやすい地域ばかりに焦点が当たり、全体には目が行き届いていなかった」と指摘し、指示権発動には正確な状況把握が欠かせないとくぎを刺した。
 指示権拡充で行政の非常時対応は向上するのか。
 ある自治体関係者は「国はコロナ対応で右往左往していた。対処能力が不十分なのに指示権を拡充しても意味がない」と冷ややかに語った。