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原子力重視、資源生かせず 世界は再エネ導入加速 意欲 地球沸騰 ルール


原子力重視、資源生かせず 世界は再エネ導入加速 意欲 地球沸騰 ルール 出力制御により今年の売電収入が激減する見込みの太陽光発電事業者の施設=10月、熊本県
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 脱炭素社会の実現に向け、欧米や中国が再生可能エネルギーの導入を加速させる中、日本の取り組み停滞が目立つ。岸田政権のエネルギー政策は原子力重視が鮮明で、頻発する出力制御に有効な対策を示せていない。今月末からの国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では再生エネ拡大も議論される見通しだが、国内では「主力電源化」の道筋が描けていない。
 「こんな調子で出力を抑制されたら今後10年の売電収入が2億~3億円ほど吹っ飛ぶ」。10月、熊本県で2カ所の太陽光発電所(計約4千キロワット)を運営する会社の社長(63)は頭を抱えた。日照条件が良い九州は太陽光が普及。九州電力は2018年以降、出力制御を実施し、23年度は過去最大を更新している。豊富な太陽光資源を生かせていない形だ。「事業を拡大する意欲を持つ人がいなくなる」。強い日差しの中、パネルの汚れを拭く従業員を見守った。
 太陽光や風力は温室効果ガスを出さない半面、開発による自然環境への悪影響を懸念する声もある。太陽光パネルの廃棄も課題で、政府は30年代後半に年50万~80万トン発生すると試算するが、対応は遅れ気味。再生エネへの負のイメージが定着しかねない。
 国際社会では、グテレス国連事務総長が「地球沸騰時代」と危機感を表明するほどの地球温暖化に対処するには、再生エネの拡大が不可欠という認識が高まっている。国際エネルギー機関(IEA)は9月、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が掲げる、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑制する目標達成には、30年までに再生エネの設備容量を22年の3倍に当たる110億キロワットに引き上げる必要があるとの報告書を公表した。
 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、中国の設備容量は13年の3億6千万キロワットから22年に11億6千万キロワットと急成長。欧州連合(EU)も3億4千万キロワットから5億7千万キロワットに伸ばした。発電コストの低下を追い風に、右肩上がりで導入拡大を続ける国や地域は多い。日本は4600万キロワットから1億2千万キロワットと2倍超となったが、総量では物足りない。
 「再生エネの導入加速へ軌道修正が必要」「昼間の電力需要を増やし、電気を捨てない工夫が求められる」。今月、東京都内で開かれた関連イベントでは、専門家が太陽光発電を増やし、出力制御を減らす方策を話し合った。
 ただ岸田政権からは、再生エネ拡大への積極姿勢は見えてこない。原発の60年超運転を可能とし、次世代型の建設も打ち出すなど、原発活用に注力した姿とは対照的だ。
 京都大大学院の諸富徹教授(環境経済学)は「原発が増えると供給力が増え、再生エネが入る余地が小さくなる」と指摘する。出力制御を実施する際は火力発電、再生エネの順番で対象となり、原発や地熱などは最後にするルールがある。再稼働が増えると、原発が再生エネを押しのける形になる。火力もゼロにはならず、抑制は一定程度だ。諸富氏は「ルールを見直し、原発にも可能な範囲で抑制を求めたり、低需要期での石炭火力を休止したりすることを検討すべきだ」と訴える。