<金口木舌>チバリヨー、美ノ海


<金口木舌>チバリヨー、美ノ海
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 元世界王者のボクサー、比嘉大吾選手がかつて恐怖心について語った。「(対戦を)横から見るのと、(敵を)目の前で見るのとは違う」。人が生きることと重なる気もして、この言葉をたまに思い返す

▼「逃げずに真正面から戦う」。大相撲九州場所で県出身では17年ぶりとなる新入幕を果たした苦節7年半の小兵、美ノ海は番付発表後に言った。うるま市出身の30歳。速い動きから前みつを引いての寄りが鋭い
▼兄弟十両の誕生で話題を呼んだ弟の木崎海は3年前、首のけがにより25歳で惜しまれ引退。美ノ海もその後、脳しんとうで休場を余儀なくされた。いずれも場所中の対戦で土俵から落ちた
▼「きょうが最後かもしれない」。取組の恐怖を身に刻む美ノ海は、番付を上げるより相撲ができる感謝を胸に土俵へ上がってきた
▼木崎海の無念も抱えて臨んでいるであろう幕内初日を白星発進し、「納得のいく相撲を一日一日取っていく」と語った。土俵の上に力士の人生はある。ハッケヨーイ、ノコッタ。そして私たちの人生も続いていく。