有料

「夜さんぽ」で話し、聞き合って/大学院生ら名古屋で開催/父の自死きっかけに活動/年代、職業さまざま 公園に月1集う


「夜さんぽ」で話し、聞き合って/大学院生ら名古屋で開催/父の自死きっかけに活動/年代、職業さまざま 公園に月1集う 名古屋市久屋大通公園
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 名古屋市中心部の久屋大通公園で月に1度、公園に集った見ず知らずの人々がお互いの身の上話をしながら90分間周辺を歩く「夜さんぽ」が開催されている。約2年半で、参加者は県内外の延べ300人を超えた。運営する団体の代表は「話し、聞き合うことでそれぞれの夜が温かくなれば」と話している。
 団体は2020年10月に結成した「Love Life Project」。同市主催の地域振興プロジェクトで知り合った大学院生角羽康希さん(32)=活動名、NPO職員櫛谷彩乃さん(35)、会社員長谷川真穂さん(31)の3人が共同代表を務める。
 21年3月から大学でのイベントなども含め25回以上開催し、300人超が歩き語らった。参加者は大学生から定年退職者までさまざまだ。
 活動は午後6時から始まる。3~4人ずつで1組をつくり、公園の1周2キロほどのエリア周辺を90分自由に歩きながら、配布される項目に沿って話し合う。
 始めは「今日の昼ご飯」などたわいない内容だが、徐々に「大切にしている言葉」や「今悩んでいること」など、より内省的なものに変わっていく。聞いた内容を他言しないこと、意見や助言をせず話し手に寄り添うことが約束だ。
 にぎやかな昼間と雰囲気が大きく変わる夜の公園は、はっきりと顔が見えず落ち着いて話せるのが魅力の一つ。9月上旬の回では「ついつい話しすぎてしまった」「知らない人とこんなに打ち解け合えるなんて驚いた」との声も聞かれた。
 代表の1人、角羽さんは約5年前に自死で父を亡くした。公園で見つかった父を思い、心をひどく痛めた。行政の窓口や民間の電話相談を試す中、心が楽になったのは似た境遇を持つ自死遺族の集いだった。話し合う、聞き合うという当たり前の行為がとても重要だと気付いた。ずっと活動の軸だ。
 「私たちは専門家ではなく、明確な正解を提示できない。だからこそ、心を開き合える気がする」と角羽さん。「月に1度、夜の公園に誰でも参加できる活動があると知ってもらいたい。そこに集った人と今を一緒に生きるために、精いっぱい続けていく」と話した。

充実感にあふれた時間

 居眠りして教授に肩をたたかれていた大学の授業1こま分の90分間。記者も参加した「夜さんぽ」は、同じ長さとは思えない充実感にあふれた時間だった。
 散歩の経路は本当に自由だ。都会の中心にある公園の端っこで、人けのないベンチに腰を下ろし、年代も職業も違うであろう3人が好き放題身の上話をした。家族、将来、最近面倒くさいと思っていること。少しだけ涼しくなった9月の風を浴びながら、しらふで語らうなんて体験がなく、どきどきした。
 締めくくりには、参加者が1人ずつ感想を述べる。私もつい「一社会人の生活の中では味わえない不思議な時間をありがとう」と言った。参加者約20人は活動の約束通り、静かにうなずきながら聞いてくれていた。いつかは分からないけれど、帰ってきたいと思える空間があった。(共同通信記者・岸本靖子)