有料

南シナ海、にらみ合う米中 比軍拠点巡る攻防緊迫


南シナ海、にらみ合う米中 比軍拠点巡る攻防緊迫 南シナ海上空で、米軍のB52から確認された中国軍の戦闘機「殲11」の画像=10月(米インド太平洋軍提供・AP=共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米中首脳が軍の対話再開で合意する中、16日にインドネシア・ジャカルタの東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議で米中代表が顔を合わせた。対立の最前線、南シナ海では両国軍がにらみ合い、ASEANは偶発的衝突に巻き込まれかねないと懸念している。
 南シナ海のアユンギン礁では、フィリピンが1999年にわざと座礁させて軍の拠点にした老朽艦を巡る攻防が緊迫化している。
 「この海域から即座に離れなさい」。同礁に向かう補給船団の巡視船の船橋に10日、中国の無線警告が響き渡った。同行した報道陣の前で8時間も進路妨害が続いた。
 「妨害は比中関係に悪影響を与える」。乗組員は必死に反論したが、中国艦船は約50メートルまで近づき、放水砲も使って船団をかく乱。病院船を含む軍艦5隻を遠巻きに配置して威嚇した。上空には米軍偵察機が旋回。米国はフィリピンの公船が攻撃されれば、防衛に加わると警告している。
 約80年前に建造された老朽艦はさびつき、無残な姿をさらす。兵員の居住環境は劣悪だが、中国は補修資材の搬入を阻止。「朽ち果てるのを待つつもりだ」。フィリピン軍高官はいら立つ。
 食料や交代要員を届ける船団は10月、中国の艦船に衝突された。「危険な不法行為だ」とバイデン米大統領は批判。日本やオーストラリアなどと結束してフィリピンと合同演習も重ねている。
 ただ、ASEANで南シナ海の権益を巡り中国と利害が対立する加盟国は半数にとどまる。経済的利益に期待し、中国への刺激を避けたい国も多く、足並みは乱れる。
 米軍によると南シナ海上空で10月下旬の夜間、B52戦略爆撃機に中国軍の戦闘機「殲11」が3メートル以内まで異常接近した。
 日本の防衛筋は中国軍関係者とのやりとりを踏まえ、台湾問題は「中国の核心的利益の核心」だが、周辺国の関心が集まる中、拙速な行動を避けていると分析。むしろ南シナ海の方が「現実として軍事衝突に発展する危険性が強まっている」との見方を示す。
 オースティン米国防長官はジャカルタで声明を出し「危機を招き得る誤解や誤算を防ぐためには両軍の意思疎通の維持が不可欠だ」と訴えた。
 (ジャカルタ共同=杉田正史、比嘉杏里、佐々木健)