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「吃音」支援の輪広げる/治療より「寄り添い」を/将来の教員と交流、理解促す


「吃音」支援の輪広げる/治療より「寄り添い」を/将来の教員と交流、理解促す 香川大で教員を目指す学生に出前授業をする古市泰彦さん=7月
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 滑らかな発音が苦手な吃音(きつおん)に悩む人の相談の場が全国的に不足しており、当事者自らが支援の輪を広げている。旭川荘南愛媛病院(愛媛県鬼北町)で「吃音相談外来」を開設し、自身も当事者の岡部健一院長(71)は、「医療関係者の間でも症状への理解が進んでいない。環境整備が急務だ」と指摘する。
 香川県さぬき市の同市職員古市泰彦さん(55)は小学3年で起立の号令の「き」の発音ができず、吃音を自覚した。国語の音読も苦痛で「うまく話せないから人前での発表はしたくない」と先生に打ち明けたが、「緊張してるだけ。練習すれば大丈夫」と言われ、不登校になったこともある。
 成人してから耳鼻科、精神科、呼吸器内科など約30もの診療所も回ったが、吃音に詳しい医師はおらず、自分の力で治してくるように言われた。精神安定剤を飲んだり、無理に治そうとしたりもした。「相談できる人がそばにいれば心が軽くなったはず」と振り返る。岡部院長によると、吃音がある人は社交不安症を患う割合が多く、ひきこもりや自殺に追い込まれる人もいるという。
 岡部院長はがん治療が専門だが、自身も症状に悩んだ経験から2015年に吃音相談外来を開設。関東からも当事者が訪れ、200人以上を診てきた。診察では1時間半ほど話を聞き、精神障害者保健福祉手帳の取得に必要な診断書も書く。外来では吃音を無理に治さず、向き合い方を考えて気持ちを楽にする「認知行動療法」を取り入れる。「症状は人それぞれで理解が難しい。寄り添う人の存在が欠かせない」
 相談の場が不足する理由について「他の疾患に比べて診察に時間と労力を要し、医師が手を出しづらい。医師国家試験の1%、言語聴覚士国家試験の2%しか出題されず、知らない人も多いのでは」と指摘。「相談所の設置や専門家の育成など行政レベルの支援が必要だ」と訴える。
 古市さんは当事者でつくる自助グループ「香川言友会」の副会長として毎年、香川大で出前授業に臨む。学校で苦悩した当事者が多い中、教員を目指す学生に経験を話し、理解を促す。出席者の約半数が吃音を知らないが、症状に悩む児童、生徒がいれば話を聞き、しっかり向き合いたいと考えるようになってくれていると感じている。
 古市さんの目標は「当事者が症状を打ち明け、理解してもらえる社会の雰囲気をつくること」。「昔の自分と同じ思いをしてほしくない」と願い、新たな相談の場の構築に取り組んでいる。

<用語> 吃音(きつおん) 思うようにスムーズに話せないこと。言葉の繰り返しや引き伸ばし、始めの一音が出にくいといった症状がある。人前での発表や固有名詞を多用する場面に苦痛を感じる人が多く、社交不安症を併発するケースも。思春期に深刻な悩みとなったり、職業選択に影響を与えたりすることもある。症状には個人差や波があるため、周囲の人に理解されづらい。