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「戦略的互恵」で修復演出 処理水・安保、根深い不信 日中首脳会談


「戦略的互恵」で修復演出 処理水・安保、根深い不信 日中首脳会談 戦略的互恵関係を巡る日中の構図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相と中国の習近平国家主席が約1年ぶりの会談で「戦略的互恵関係」の推進を確認した。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出で生じた亀裂が深まるのを避けるため、無難な「原点回帰」で一致点を見いだした形だ。だが処理水を巡る溝は埋まらず、安全保障や経済面でも懸案は山積み。トップ会談で関係修復を演出したものの、相互不信は根深い。(1面に関連)

振り上げた拳

 「戦略的互恵関係の位置付けを再確認し、新時代の要求に沿う関係構築に努力すべきだ」。習氏は16日、米サンフランシスコで呼びかけた。岸田氏は「先人たちの精神を受け継ぎ、次世代のために明るい日中関係の未来を切り開けるよう力を合わせたい」と応じた。
 岸田氏は当初から11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた習氏との会談を目指した。処理水放出に猛反発した中国との間で事態をコントロールするには、絶対的な権力を掌握した習氏と直接渡り合う以外にない。
 2008年に日中が共同声明に盛り込んだ戦略的互恵関係を確認する場と位置付ければ、習氏も乗りやすいとの計算が働いたのは間違いない。岸田氏は「実現のため、あらゆる調整をしろ」と外務省に指示した。
 環境整備は徐々に進む。日中は8月の処理水放出後、中国陝西省西安で非公開の外務省局長協議を行い、中国から関係発展を望む考えが伝えられた。9月に入るとインドネシアで岸田、李強両首相が初めて接触。10月の日中平和友好条約発効45年の節目では、両首相がメッセージを交換した。日本政府筋は「中国は振り上げた拳を下ろしたがっていた」とみる。

本音

 中国も米国との覇権争いに苦慮する中、トップ会談実現への道を探っていた。新型コロナウイルス禍からの経済立て直しが遅れ、不動産大手の経営難を背景に不動産市況は大きく落ち込んだ。景気悪化は社会不安や習指導部批判につながりかねず、会談をてこに日本からの投資を呼び込みたいとの本音があった。
 「今年は中日平和友好条約締結45周年だ。このチャンスを捉え関係を改善させたい」。9月下旬、北京で開かれた中国政府要人と各国駐中国大使との会合で、李氏は日本の垂秀夫大使(当時)に力説した。垂氏は岸田氏の親書を手渡し、建設的な関係構築を訴えた。
 その場にいた王毅外相は垂氏に、日本で外交・安保政策を統括する秋葉剛男国家安全保障局長の訪中に関し「極秘」を条件に受け入れる意向を伝達。計画は共同通信などに事前に報じられたが、秋葉氏は予定通り11月9日に北京で王氏と首脳会談の事前協議に臨んだ。

衝突

 こうして16日の会談にこぎ着けたが、日中関係が本格的な回復に向かう兆しは乏しい。習氏は処理水を「核汚染水」と呼び、歩み寄りは見られなかった。日本政府筋は「中国は処理水が安全だとは思っていない。立場の隔たりは大きい」と認める。中国が日本産水産物の輸入規制を撤廃する保証はなく、尖閣諸島を巡る対立や台湾問題も横たわる。「安定的な日中関係を目指す大きな方向性を確認した。一定の手応えを感じている」。岸田氏は会談後、記者団に強調した。ただ政権幹部は「楽観視してはいない。中国が国際秩序を塗り替えようとする以上、必ず衝突する」と語った。
 (サンフランシスコ共同)