有料

【解説】APEC首脳宣言 存在意義が問われる 


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)が、ぎりぎりの調整を続けた末に首脳宣言の採択にこぎ着けた。だが長期化するロシアのウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザでの人道危機への言及は回避。意見の対立で議論を深めようとはせず、合意を急いだ妥協の産物と言われても仕方ない。多国間主義を掲げる枠組みの存在意義が問われそうだ。
 ロシアや米国と対立する中国を抱えるAPECは近年、各国の立場の違いに翻弄(ほんろう)されている。昨年タイで開催したAPEC首脳会議は、ウクライナ問題で両論を併記し、ロシアに受け入れ可能な表現を盛り込んだ。今年も「タイ方式を踏襲する可能性がある」(交渉関係者)との見方が出ていたが、宣言からは文言そのものが消えた。
 米サンフランシスコで12日から始まった「外交ウイーク」は、並行の個別会談や会議が満載。スポットライトは1年ぶりの米中首脳会談や、米政権が主導する対中国を念頭にした新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に当たり、APEC関連会議の影は薄かった。
 多国間枠組みの形骸化が進めば、紛争や気候変動など国際的な問題への対処がなおざりになりかねず、体制の立て直しが求められる。(サンフランシスコ共同=尾崎雅子)