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「男らしさ」が「生きづらさ」に/ストレスで病気にも/識者「相談、自分語りの場必要」


「男らしさ」が「生きづらさ」に/ストレスで病気にも/識者「相談、自分語りの場必要」 男性の「生きづらさ」を巡るイメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ジェンダー平等の意識が高まる中、「男らしさ」の価値観にとらわれがちだった男性の「生きづらさ」が注目されている。ストレスを抱え込んだ結果、病気や問題行動などにつながるという見方もあり、識者は相談窓口や「自分語りの場」など支援の必要性を訴える。

 「男たるもの(女性を)食わせなきゃいけねえとか。そんなものに縛られていた」。10月、東京都内の書店。依存症患者や性加害者の臨床に取り組むソーシャルワーカー斉藤章佳さんとの対談イベントで、俳優高知東生さんは「男らしさ=強さ」へのこだわりから悩みを家族にも打ち明けられず、薬物依存症に苦しんだ過去を振り返った。
 支えになったのが依存症当事者が経験を語り合う自助グループの会や、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんだった。当初は「(ほかの当事者と)一緒にするなよ」とか「なんで女に言われなきゃならないんだ」などと反発したが、やがて「自分の弱さをさらけ出せるようになり、生きるのが楽になった」と語った。
 斉藤さんによると、依存症患者や性加害をする人は決して特別ではなく、仕事や育児に熱心で、社会的評価が高い人も多い。近著「男尊女卑依存症社会」(亜紀書房)では、性別役割分業がもたらす男性の「仕事中毒(ワーカホリック)」が、さまざまな依存症や問題行動の引き金になっていると分析した。
 近年加速する価値観の変化もストレスの一因になっているとの考察もある。伊藤公雄京都産業大教授(男性学)は「女性活躍推進やジェンダー平等など価値観の変化によって『何かを奪われている』と感じた男性が暴力に走ったり、精神的孤立を深めたりするケースがある」と指摘。国の統計では自殺者の約7割は男性が占め、2022年の男性自殺者は13年ぶりに増加に転じた。
 「男性の生きづらさの解消は女性や性的少数者の生きやすさと表裏一体。『男性も悩みを話していい』と社会全体で認識することが重要です」。男性が主体となって女性への暴力撲滅を目指す「ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン」の共同代表を務める伊藤教授は、公式サイトに「男性相談窓口一覧」を掲載。自治体などが全国に約80カ所設置しており、政府も拡充を促すが、悩みを共有しやすい男性相談員の養成など課題は多い。
 性別の呪縛にとらわれず自分らしく生きるため、斉藤さんと高知さんはイベントで「自助グループのような自分語りの場が必要」と語った。弱さを共有することは互いの孤立感を和らげる効果もあるといい、斉藤さんは「子どもの頃からそのような機会を繰り返せば、生きるのが楽になるのではないか」と提言した。

イベントで「男らしさ」の呪縛と依存症経験について語る高知東生さん(左)と斉藤章佳さん=東京都渋谷区の「代官山 蔦屋書店」