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園児の果物誤嚥、事故相次ぐ/国指針は加熱提供「推奨」/識者「国の関与不十分」


園児の果物誤嚥、事故相次ぐ/国指針は加熱提供「推奨」/識者「国の関与不十分」 気道閉塞(へいそく)を生じた食品の誤嚥による年齢別死亡者数
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 保育現場で提供された果物が、子どもの気道をふさぐ事故が相次いでいる。鹿児島県姶良市では、すりおろした生のリンゴを食べた生後7カ月の女児が5月に死亡。2016年に策定された国の指針は、リンゴは誤嚥(ごえん)・窒息につながりやすいとして、離乳食完了期まで加熱提供を求めるが、推奨に過ぎない。識者は、指針の通知だけでは不十分だとして「国は積極的な関与を」と話す。
 「命のやりとりをする現場。しっかり(指針を)再確認してほしい」。亡くなった姶良市の女児の父親は10月5日、記者会見で心境を語った。遺族が6月に発表した文書によると、入園前の面談で、遺族は果物を加熱して食べさせていると説明。園側は「生の果物はあげない」と答えたという。
 市は6月に有識者を加えた検証委員会を設置。9月には市内の保育園などにアンケートを行った。リンゴの調理方法や、国の指針の把握状況などを尋ね、結果を報告書に盛り込む方針だ。
 「指針の存在は知っていたが見過ごしていた部分もある」。市内の別のこども園園長は明かす。園では、市の検証委が報告書を出すまでリンゴの提供を中止したという。
 乳幼児の気道の直径は1センチ未満と狭く、誤嚥につながりやすい。消費者庁のまとめでは、14~19年、食品の誤嚥で窒息し、死亡した14歳以下の子どもは80人に上り、5歳以下が約9割の73人を占めた。原因の食品が明らかな51人のうち、リンゴやブドウなど果物類は6人だった。
 20年には東京都八王子市の幼稚園で、4歳の男児がブドウを喉に詰まらせ死亡。球形のブドウは吸い込むと気道をふさぐことがあり、国の指針は「給食での使用を避ける」としている。愛媛県新居浜市では今年5月、生後8カ月の男児がみじん切りの生のリンゴを食べた直後、意識不明の重体に。県と市が監査し、提供方法が指針に沿っていなかったと指摘した。
 こども家庭庁の担当者は、指針は「技術的な助言」だと説明。果物は種類がさまざまあり、保育施設の加熱設備の状況はそれぞれ異なるため、「(提供方法を)一律に義務付けるのは難しい」。
 子どもの事故予防に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan」の山中龍宏理事長は、リンゴは「すりおろしただけでは塊が残ることもある」と指摘。特に、奥歯の生えそろっていない乳児に与えるには、加熱し、どろどろの状態にしなければ誤嚥の可能性があるとし「提供方法にはより一層の注意が必要」と話す。
 自身も保育園を運営する「保育研究所」の村山祐一所長は「国は、指針を通知するだけでは不十分」と指摘する。離乳食の提供方法について研修を受けた保育士を現場で増やし、子どもの変化に気付けるよう保育士の配置基準の見直しにも着手するなど「積極的な関与が必要」とし、事故を未然に防ぐ環境を整備する必要があるとした。

<用語> 鹿児島のリンゴ誤嚥事故 鹿児島県姶良市の私立認可保育園「興教寺保育園」で、保育士が生後7カ月の女児にすりおろした生のリンゴを食べさせ、女児は意識不明となり、5月28日に死亡。遺族側弁護士などによると、死因は多臓器不全。女児の気道から約1~2センチの異物が見つかっており、誤嚥による窒息が原因の可能性が高いという。県は安全管理の態勢を調べるため、6月に園を特別監査し、園長や職員から当時の状況を聴取した。県警は園の対応に問題がなかったか捜査を続けている。