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会話不要の静寂カフェ 名古屋にオープン 聴覚障がいに配慮


会話不要の静寂カフェ 名古屋にオープン 聴覚障がいに配慮 注文から会計まで会話不要のカフェ「silent cafe R」の兵藤元朗オーナー=9月、名古屋市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 注文から会計まで会話不要のカフェが今夏、名古屋市にオープンした。店名は「silent cafe R(サイレントカフェアール)」。店員は手話や筆談で接客し、聴覚障害に配慮した工夫を施した。ふと訪れる静けさに魅了され、来客は引きも切らない。
 ある平日の昼下がり、店内は近所の高齢者やサラリーマン、女子学生らでにぎわっていた。店内は会話可能。団体客が会計を終え引き揚げると、店内は一気に静寂に包まれた。店員と常連客が手話でやりとりしており、物音は聞こえない。
 注文は口頭ではなく、メニューが書かれた木製スティックを専用の箱に入れる仕組み。箱には「あたたかい」「つめたい」で仕切りがあり、「氷不要」などの細かな要望は備え付けの電子メモパッドで伝える。
 オーナーの兵藤元朗さん(57)が店を開いたのは、旅先のベトナムで聴覚障害者が生き生きと働くカフェを知ったことがきっかけだ。にぎやかさと静けさが同居する店の雰囲気のとりこになった。
 エンジニアリング会社の営業として35年働く中で、職場になじめず孤立する障害者を目にしてきた。静寂をうたうカフェなら、健常者の需要も高く、店員や客が耳が聞こえず発話が難しくても支障にならないと感じ、昨年末に思い切って早期退職。聴覚障害者や手話のできる健常者を採用し今年6月、市営地下鉄今池駅近くに開店した。
 店で働く石原みず季さん(22)は、以前の職場に聴覚障害者がおらず、筆談をお願いする度に申し訳なさを感じていたといい「今は同僚やお客さんとのコミュニケーションが楽しい」と語る。
 店名の「R」は、兵藤さんの次女で自閉症の里沙さん(22)の頭文字から取った。兵藤さんは「さまざまな障害があっても、ふらっと立ち寄れる居心地のよい店にしたい」と意気込んでいる。