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生活保護減 初の賠償命令 名古屋高裁 原告逆転勝訴


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 生活保護費の基準額引き下げは憲法が保障する生存権を侵害し生活保護法に違反するとして、愛知県内の受給者13人が居住自治体による減額処分の取り消しと国への慰謝料を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は30日、請求を退けた一審名古屋地裁判決を取り消し、国に1人1万円の支払いを命じた。減額処分も取り消した。原告弁護団によると、全国各地で提訴された同種訴訟で、賠償を命じる判決は初めて。
 長谷川恭弘裁判長は判決理由で、厚生労働相の減額判断は独自の指数を基に行われ「客観的な数値などとの合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く。裁量権の範囲を逸脱していることは明らかだ」と指摘した。生活保護法に加え、国家賠償法上も違法と結論付けた。
 一連の訴訟で高裁判決は、原告側の逆転敗訴となった今年4月の大阪高裁に続き2件目。同種訴訟は29都道府県で起こされ、一審判決22件中12件で減額処分を取り消している。
 原告側代理人の森弘典弁護士は判決後の記者会見で「国家賠償も認めるなど最高最良の判決といえるのではないか」と述べた。厚労省は「判決内容を精査し、関係省庁や自治体と協議し、適切に対応したい」とした。
 厚労省は物価が下落したとして、2013~15年の3年間で基準額を平均6・5%引き下げ、計670億円を削減した。
 20年6月の一審名古屋地裁判決は、厚労相の引き下げ判断に「過誤や欠落があるとは言えない」として請求を棄却。原告側が控訴した。

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問われる安全網の役割/コロナで申請増続く

 生活保護費の基準額引き下げを巡る一連の訴訟で、初めて司法が国に賠償を命じた。地裁判決では国の減額処分取り消しも相次いでおり、憲法が保障する「最後のセーフティーネット(安全網)」の役割が問われている。足元では新型コロナウイルス禍の影響で申請増加が続く。物価高騰が追い打ちとなっており、支援者は制度の拡充を求める。

国「負け越し」

 「最高裁の判断が出るまでは分からない」。30日の名古屋高裁判決を受け、生活保護費を引き下げた当時の事情に詳しい与党幹部は、今後の司法判断を注視する考えを示した。
 訴訟で争われた2013~15年の引き下げは、自民党の政権復帰後に実施。直前12年の衆院選では、自民党が公約に生活保護費減額を掲げた。タレントの親族の保護費受給が話題となり、生活保護制度に対する世論の風当たりが厳しくなる中での見直しだった。物価を考慮したとする厚生労働省の見解を疑問視する意見は根強い。
 その後に全国で起こされた訴訟では、地裁判決の半数超が減額処分を取り消し、国が「負け越し」の状態に。大阪高裁では国が勝ち、高裁では1勝1敗。このため厚労省は当面静観の構えだが、方針転換を迫られる可能性がつきまとう。

165万世帯

 生活保護は、憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための具体的な政策。減額の対象となった食費や光熱費に相当する「生活扶助」のほか、家賃を賄う「住宅扶助」、医療費に充てる「医療扶助」などがある。生活に困窮した人が自治体の福祉事務所に申請すれば、支給の可否決定を経て受給できる仕組みだ。
 コロナ禍の影響を受け、申請件数の伸びは続く。厚労省によると、8月の申請は2万1341件で前年同月比3・8%増えた。増加は8カ月連続。現状は約165万世帯以上が利用している。厚労省担当者は「コロナ禍で実施された特例的な生活支援施策の縮小や、長引く物価高も要因」と分析する。

貧困拡大

 コロナ禍を経て、貧困は従来よりも多くの人が陥りやすい問題になったとの指摘がある。生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」(東京)の小林美穂子さんは「貧困の底が抜けた」と表現。現場では、コロナや長引く物価高で、生活保護受給者やその一歩手前の人が炊き出し、食品の無料配布に頼るケースが拡大しているという。
 「政府は人気取りのように時折給付金を配るのではなく、判決を踏まえて基準額を元に戻し、ナショナルミニマム(国民生活の最低保障)を実現するべきだ」と語った。


(共同通信)