ニューヨークで開かれた核兵器禁止条約第2回締約国会議は1日、核廃絶への決意をあらためて示し閉幕した。ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザの戦闘で世界の安全保障環境が緊迫し、軍縮が停滞する中、核兵器を違法化した同条約は被爆者らにとって「希望の光」だ。だが、「核の傘」に頼る国々は抑止力重視を訴え、非核国との溝は埋まっていない。賛同する国を増やして核廃絶の機運を高められるか、前途は多難だ。
成功
「確実にこの条約が前に進んでいる」。条約制定を主導した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員(55)は閉幕後、強調した。日本や韓国の被爆者、核実験の被害者らが非人道性を訴え、実態が知られたことを成功の要因の一つに挙げた。
開幕から傍聴を続けた広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長(79)は、生後9カ月で広島で被爆し「黒い雨」を浴びた。この日、政治宣言の採択を見届けると、核廃絶に向けた被爆者の思いが世界に広がったことを実感した。「私たちの時代が始まるんだと、はっきり分かった」
現実
締約国や非政府組織(NGO)の盛り上がりとは裏腹に、オブザーバー参加した北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとベルギー、ノルウェーは、ロシアのウクライナ侵攻や中国の不透明な核戦力増強といった「現実」を突きつけた。
「もはやロシアは信用できない」。ベルギーの代表は、ドイツ、ノルウェーと共にロシアと対峙(たいじ)するNATOの核抑止力の重要性を強調した。3カ国は対話を目的に出席したと説明しつつ「条約に加盟するわけではない」とくぎを刺した。
締約国会議が採択した政治宣言は、核の威嚇に基づく抑止論が「核兵器に偽りの信頼感を与えている」と批判。一方、NATOが米国の核の共同運用を目指す「核共有」の文言は草案から削除され、配慮もにじませた。
浸透
2021年発効の核禁止条約には93カ国・地域が署名し、69カ国・地域が批准などを経て加盟した。
「他の国際条約に比べ締約国の伸びが遅いということはない」と国連軍縮担当上級代表の中満泉事務次長。だが、核保有国や日本などの参加が見通せない中、「核なき世界」の実現へ国際社会の機運を勢いづけられるかどうかが課題だ。
議長を務めたメキシコのデラフエンテ前国連大使は閉幕後「署名、批准国の数も大事だが、われわれの主張を社会に浸透させていくことが重要だ」と訴えた。会議に参加した被爆者らをたたえ「条約はとても生気に満ちている」と前を見据えた。
(ニューヨーク共同=新井友尚、稲葉俊之)