<金口木舌>見知らぬ地名と戦火


<金口木舌>見知らぬ地名と戦火
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 子どもだった頃、列車の時刻表や地図帳に出てくる国内外の街の名前を眺めては楽しんだ。知らない世界の手触りがそこにあった

▼ロシアのウクライナ侵攻から1年9カ月、戦火の街や村の名前を次々に知らされる毎日だ。9年前のロシアによるクリミア強制編入以降、ウクライナ東部最前線の要衝として戦闘が続くドネツク州アウディーイウカ。爆撃の街に残り地下で避難生活を送る人を思う
▼米空軍オスプレイの屋久島沖墜落後、佐賀県吉野ヶ里町の目達原(めたばる)の名に触れた。千葉県木更津市とともに同機配備の陸自駐屯地があり、いずれの呼称も日本の古代史と分かち難く結ばれる
▼文明の豊穣(ほうじょう)や人々の暮らしをよそに常に戦争が影を落とす中東の街の名前。イスラエルとハマスの戦闘はつかの間の休戦を経て再開され、パレスチナ自治区のガザは砲火の中に引き戻された
▼若い人たちが世界に触れる手掛かりが戦争であってほしくない。私たちは手を取り合い、戦火や暴力から街や村の名前を、人々の穏やかな生活を取り戻さなくてはならない。