有料

食事の困難 再生医療が挑む/先天性食道閉鎖症/粘膜細胞 食道へ移植/5年後 実用化目指す


食事の困難 再生医療が挑む/先天性食道閉鎖症/粘膜細胞 食道へ移植/5年後 実用化目指す 食道の狭窄に対する粘膜移植のイメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 生まれつき食道が途切れている「先天性食道閉鎖症」は、赤ちゃん3千~4500人に1人の割合で発生する病気だ。治療では離れた上下の食道をつなぐ手術が行われるが、つないだ箇所が修復過程で細くなってしまう吻合部狭窄(ふんごうぶきょうさく)を起こすことが多く、その後の食事に困難を来す。狭窄を防ぐため、患者本人の口の粘膜から作った細胞シートを食道内壁に移植する再生医療の臨床研究を国際医療福祉大や国立成育医療研究センターなどのチームが進めている。
 「今まで食べたことのなかった焼き肉やとんかつが食べられるようになった」。そんな患者の言葉に、国際医療福祉大成田病院の渕本康史教授(小児外科)はこの治療法への手応えを感じた。

食べる幸せ

 患者は生後間もなく食道をつなぐ手術をした30代女性。定期的に処置を受けてきたが、数カ月もすると喉の奥が詰まり、液体やゼリーで栄養分を取らざる得なかった。細胞シートの移植から約1年、処置なしでも良好な状態が続いている。「うまくいけば食べる幸せを感じられる。生活を変える可能性のある治療法だ」と渕本さんは話す。
 先天性食道閉鎖症は、母親の胎内で赤ちゃんの体がつくられる途中、気管と食道が分離する時期に何らかの異常が起きて発症すると考えられている。患者は男性の方が多い。妊娠中に分かることもあるが、半数以上は出生後に診断される。口から唾液があふれる症状や、肺炎などの合併症をきっかけに判明する。

風船で拡張

 かつては救命も難しかったが、最近は多くの医療機関で手術が行われ治療成績も向上。日本小児外科学会の2018年の調査では、手術や入院から90日以内の死亡率は7・5%となっている。
 ただ、術後に約40%の症例で吻合部狭窄が発生する。その場合は先端に風船の付いた内視鏡を挿入し、狭くなった部分で膨らませて内側から押し広げる治療を行うが、長期にわたって何度も繰り返さなければならないケースも少なくない。
 食べ物が詰まるのではないかと常に不安に感じる人や、食べる量を過度に制限する人がいる。家族のだんらんや外食を楽しめないという人も。「困っている人を助けたい」と、渕本さんらは18年に臨床研究に着手した。
 対象は風船による拡張を5回以上行っても狭窄を繰り返している患者。本人から口腔(こうくう)粘膜と血液を採取し、粘膜細胞を血清が含まれる培地で培養してシート状にする。できた細胞シートを風船で拡張した直後の食道内壁に内視鏡を使って貼り付ける。細胞シートは本人の組織から作るため、免疫による拒絶反応は起こらないと考えられる。

実用化への壁

 これまでに10~30代の4人に移植を実施し、一時的にしか改善しなかった1人を除き、3人で効果が認められた。うち1人は3カ月ごとに必要だった狭窄部の拡張を、移植後は2年半以上受けていないという。安全性の問題も生じていない。
 今後5年をめどに実用化したいというが、課題もある。希少な病気のため臨床研究に患者が集まりにくい。費用対効果の面から企業の協力を得にくい。細胞シートの貼り付けにはこつがいるため医師の訓練も必要だ。なぜ効果があるのかも十分には解明できていない。チームはこうした壁を乗り越えて患者に治療を届けたいと考えている。(共同=村川実由紀)