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寄稿/沖縄で新たな 国際映画祭/世良利和/沖縄系4世ヨギ監督に注目/小津安二郎の世界通じる


寄稿/沖縄で新たな 国際映画祭/世良利和/沖縄系4世ヨギ監督に注目/小津安二郎の世界通じる 「シンプル・マン」(クリストファー・マコト・ヨギ監督)の一場面©Visit Films
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 先月末に開催された第一回 Cinema at Sea沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバルは、期待以上の規模と多様性を持つ内容だった。「環太平洋」というくくりを設け、そこに民族・言語・島嶼(とうしょ)・性などをめぐるマイノリティーのテーマが意識的に重ねられていた。派手なセレモニーや映画ビジネスの側面については他に任せるとして、以下では印象に残った作品を取り上げてみたい。
 私が一番注目したのはクリストファー・マコト・ヨギ監督の特集だ。ヨギはホノルル出身の沖縄系4世で、相互に内容のつながる長短4本の上映は、彼の作品世界を知る上で意義深いプログラムだった。『アキコと過ごした八月』(2018)では、サックスを携えた青年が10年ぶりにハワイ島に帰ってくるが、すでに祖父母の家はない。仏教の宿泊施設を訪ねた彼は管理者のアキコに導かれて村の人々と出会い、自身の内面に向き合う。真田敦監督の『ホノカアボーイ』(2009)に似た設定もあるが、テイストは全く異なる。また本作では台北生まれのサックス奏者が主人公を演じており、ドキュメンタリーとフィクションがせめぎ合う構成だ。
 一方『シンプル・マン』(2021)には、今回上映された2本の短編『お化け』(2011)と『誠』(2013)が直接反映されていた。老境を迎えて病に冒された主人公の前に、若くして死別した妻の亡霊が現れる。物語は現在と過去、現実と幻想を行き来しながら、男の人生と家族の姿を描き出してゆく。ヨギは上映後のトークで小津安二郎への敬愛を口にしたが、作品に流れる静かな時間や家族をめぐるテーマは、たしかに小津の世界に通じている。またヨギの視線はハワイの自然に宿る霊的な世界や移民としてのルーツにも向けられ、『アキコ―』同様、本作の劇中でも三線がつま弾かれる場面があった。
 映画祭のコンペ部門ではマレーシア映画『アバンとアディ』(2023)とドキュメンタリー『クジラと英雄』(2023)の2本が良かった。前者は身分証を持たない社会的弱者が主人公で、民族、言語、障害、クイアといった要素をからめつつ、血縁のない「兄弟」の絆を描いている。後者はアラスカの島で漁師として生きる少年とその家族に焦点を当て、伝統的な捕鯨の意味とそれを取り巻く現状を問うていた。
 ところが最優秀映画賞にはこの2本ではなく台湾映画『緑の模倣者』(2023)が選ばれている。これはミドリコガネムシが人に擬態するという設定や物語の展開、演技に無理があり、私は最後までなじめなかった。個人的には不可解さを残す審査結果だと思うが、単に私の目が節穴だったのかも知れない。
  (沖縄映画研究者)