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第1回沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル/島々に焦点 多彩な作品


第1回沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル/島々に焦点 多彩な作品 「GAMA」について語る小田香監督(右)と出演した松永光雄氏=11月25日、那覇市の桜坂劇場
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 11月23~29日、那覇市や南城市を会場に開かれた第1回沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル(NPO法人Cinema at Sea主催)。環太平洋地域の島々に焦点を当てた37作品などを上映した。コンペティション部門の受賞作や、注目の監督として紹介されたクリストファー・マコト・ヨギ監督の作品など、沖縄、ハワイ、台湾などが舞台になった4作品を紹介する。

ジョン・ユーリン監督 「緑の模倣者」/受け入れるという問い

 ジョン・ユーリン監督の「緑の模倣者」(台湾、2023)が11月27、29日、那覇市のテンブスホールなどで上映された。同作品はコンペティション部門9作品の中から、最優秀映画賞を受賞した。人間の姿に擬態した緑色のコガネムシの物語。人間と自然の境界が曖昧化する世界観を、客家語を用いて、マジカルな展開が繰り広げられる。
 舞台あいさつでユーリン監督は原作者のカオ・イーフェンに会ったと振り返り「短編小説は想像の空間を残してくれるからこそ、映像を撮る上でも自分の中でいろんな想像を働かせながら作る余白があった」と話した。
 ユーリン監督は「外から来るものや人に対して、やや排他的になってしまうことがあるが、受け入れるということはどういうことか、万人に投げかけられる問いだと思った」と語った。 (田中芳)

クリストファー・マコト・ヨギ監督 「シンプル・マン」/アイデンティティー映す

 クリストファー・マコト・ヨギ監督の「シンプル・マン」(米国、2021)の上映が11月23、25の両日、那覇市の桜坂劇場であった。日本初上映。
 ハワイのオアフ島ノースショアの田園地帯が舞台。死期の近づいた老人、マサオに若くで死別した妻の幽霊が現れる。過去と現実と未来が同時に進み、シームレスに切り替わるような物語展開で、沖縄からハワイに移住したマサオの家族とハワイの歴史、自身のアイデンティティーを映した。
 「シンプル・マン」の制作につながった短編作品「お化け」(2011)も同時上映した。
 舞台あいさつでヨギ監督は、監督自身の2人の祖父からインスパイアを受けてマサオという主人公が生まれたと説明。部屋を起点に時間軸が変わる展開に「祖父が亡くなる前に部屋で話したことが印象的で、部屋をポイントにした」と自身の経験が反映されていると明かした。
 ヨギ監督は本映画祭注目の監督として紹介され、全4作品が上映された。(田吹遥子)

「夢幻琉球・つるヘンリー」 高嶺剛監督/斬新でどこか懐かしい

 高嶺剛監督の「夢幻琉球・つるヘンリー」(日本、1998)の上映が11月25日、那覇市の桜坂劇場であった。1998年にロッテルダム国際映画祭などに出品された作品。
 放浪の民謡歌手つる(大城美佐子)が映画「ラブーの恋」のシナリオを拾ったところから始まり、息子のヘンリー(宮城勝馬)と共に映画化を実現させていく物語。當間美恵蔵、平良進、親泊仲眞のメインキャストに加え、平良とみやヒゲのかっちゃんらも出演。現在と過去、現実とフィクションがおり混ざったカオスで斬新で、どこか懐かしい展開を見せる。
 高嶺監督は「この映画が沖縄から出てきたことは新しい引き出しをつくることができた」と振り返った。
 高嶺監督は、本映画祭で創設された、これまでに傑出した業績を残した人や団体に贈られる「マブイ特別賞」の第1回受賞者で、映画祭では3作品が上映された。 (田吹遥子)

「GAMA」 小田香監督/ガイドの語りを追体験

 小田香監督の「GAMA」(日本、2023)が11月25、26日、那覇市の桜坂劇場で上演された。沖縄で初の上映作品。
 沖縄戦を語り継ぐガイドであり、遺骨収集の活動をしている松永光雄氏の語りを中心に展開する。県内各地のガマを訪れて松永氏がガイドをする。スクリーンに映るガマの闇と、わずかな光の中で聞く松永氏の語りが観客を追体験させる。
 地下空間を記録するプロジェクトの一環で撮影された作品。出演した松永氏は「戦争を経験してほしくないという気持ちでガイドをしている」と話した。
 「パシフィックショーケース」として同時に「サシングヮー」(高嶺剛監督、日本、1973)と「先祖たちの拒絶」(ショウ・ヤマグシク監督、カナダ・アメリカ、2021)が上映された。高嶺監督の家族写真を映画にした「サシングヮー」で高嶺監督は「ささやかな個人のものを映画として発信することが大切」と語った。
  (田吹遥子)