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安倍派一掃、危険な賭け 首相 刷新演出急ぐ 国会後の一斉聴取にらみ 裏金問題


安倍派一掃、危険な賭け 首相 刷新演出急ぐ 国会後の一斉聴取にらみ 裏金問題 想定される主な政治日程
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 苦境に立つ岸田文雄首相が、政権から自民党安倍派を一掃する賭けに出た。政治資金パーティーを巡る裏金問題の闇は深まるばかりで、底なしの様相を呈する。臨時国会閉幕後に東京地検特捜部による一斉聴取も予想される中、疑惑まみれの最大派閥と距離を置くべきだと判断した。ただ大幅刷新はリスクを伴う。安倍派内では早速不穏な空気が漂い始めた。  (1面に関連)
 「これでは政府内にとどめられない」
 10日、公邸。首相は安倍派所属の政務三役全員を交代させる考えを周囲に伝えた。対象は15人。政治資金のキックバック(還流)を完全否定した閣僚もいたが「金額が多い、少ないの問題ではなかった」(周辺)。
 派閥パーティー自粛や自身の岸田派離脱表明。首相が6、7両日に立て続けに取った対応は、疑惑の全容が見えなかったとはいえ後手だった。ここにきて松野博一官房長官や高木毅国対委員長ら安倍派幹部6人が還流を受けた疑いが浮上し、「組織ぐるみの裏金づくりが濃厚」(官邸筋)と危機感が一気に高まった。
 10日午後、東京都内のホテルに安倍派の萩生田光一政調会長を呼び、人事の腹案を相談。公邸に戻ると、森山裕総務会長や茂木敏充幹事長らと慌ただしく調整を進めた。周辺は「首相の覚悟を伝えた」と明かす。

支離滅裂

 「適切なタイミングで適切に対応を考えたい」
 11日朝、官邸に入った首相は、記者団から内閣改造・党役員人事に踏み切るのかどうか問われ、こう述べるにとどめた。渦中の松野氏を13日の国会閉幕まで続けさせるのかどうかただされると、無言を貫いた。
 閣僚経験者は「特捜部が強制捜査や安倍派議員の聴取に乗り出すのは閉幕後だろう」と指摘。それまでに一気呵成(かせい)に人事を刷新し、立て直しを図るのが首相の狙いだと読み解く。
 ただ立憲民主党は11日、先手を打って松野氏の不信任決議案を提出した。安住淳国対委員長は「『松野さんは素晴らしいから続けてほしい』という人は自民にもいないと思う」と揺さぶる。
 自民は否決に動くが、与党内には「程なく更迭される人なのに、否決して『信任』を与えるのは支離滅裂だ」(公明党幹部)との声もある。重鎮議員は「家宅捜索が入ってからでは遅い。早めに動かないと大変なことになる」と焦りを隠さない。

泥舟

 政権内の安倍派議員を総入れ替えする人事に、自民内で理解を得られるかどうかは不透明だ。
 第4派閥の領袖(りょうしゅう)だった首相にとって、100人に近い勢力を誇る安倍派の支援は、2021年9月の総裁選勝利を後押しした。それだけに若手は「安倍派というだけで切り捨てられるなんて不愉快だ。いずれ逆襲する」と息巻く。
 内閣支持率が低迷する岸田政権で官房長官や国対委員長といった要職を引き受けるのは「泥舟に乗るようなもの」(閣僚経験者)との忌避感も働く。新閣僚に新たな疑惑や不祥事が発覚すれば、さらに窮地に陥るのは間違いない。
 過去を知る古参の無派閥議員は苦虫をかみつぶしたように語った。「党が倒れるかどうかの瀬戸際だ。派閥の利害抜きに、今は首相を支えるしかない」