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<表層深層>自民党裏金疑惑 安倍派反発 揺れる首相 人事刷新で不安定化も 立民、内閣不信任案提出へ


<表層深層>自民党裏金疑惑 安倍派反発 揺れる首相 人事刷新で不安定化も 立民、内閣不信任案提出へ 自民党派閥の構図
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 自民党安倍派の裏金疑惑が最近5年間で5億円に上る可能性が浮上した。岸田文雄首相は政治不信の払拭へ「脱安倍派」で幕引きを狙ったが、最大派閥の反発が強まった。出身派閥・岸田派にも政治資金収支報告書の過少記載の疑いが発覚し、正念場を迎えた。立憲民主党は内閣不信任決議案を提出する方向。追及へアクセルを踏み込んだ。

 悪手

 「国会がまだ開いている。今後状況を見て適切な対応を考えたい」

 12日午後、官邸。首相は、記者団から安倍派の松野博一官房長官の処遇を問われ、そう応じた。臨時国会が13日に閉幕すれば、刷新人事に踏み切る意向がにじみ出ていた。

 東京地検特捜部による裏金疑惑の捜査の行方が分からない中、来年1月召集の通常国会を見据える首相は「安倍派の政務三役15人全員を外したい」のが本音。しかし「安倍派一掃」の観測が流れると、「悪手」「無理筋だ」との批判が首相サイドに届く。

 政治資金パーティー収入のキックバック(還流)を受けたとされる同派の萩生田光一政調会長は11日、記者団に「出処進退は自分で決めたい」と表明。人事権を持つ首相を公然とけん制した。

 安倍派には、憲法改正に意欲的で、選択的夫婦別姓に反対する保守派が多い。ある古参議員は「まとめて『推定有罪』で切り捨てれば来年の党総裁選へ禍根を残す」と忠告。前のめり気味だった首相も「本人の意向を確認してから判断しよう」と刷新対象を絞る方向に傾いた。

 尻ぬぐい

 もっとも首相が柔軟姿勢に転じたのは、安倍派への配慮だけではない。「安倍派がごっそり抜けた穴を埋める人材がそもそもいるのか」(中堅)との疑問も残るためだ。

 安倍派は「数の力」を背景に、岸田政権で官房長官や経済産業相など閣僚4ポスト、党では政調会長や国対委員長を占める。「安倍派切り」を断行し、連携する第2、第3派閥の麻生、茂木両派に枢要ポストを割り当てれば「安倍派が巨大な非主流派となり、党内が不安定化するリスク」(閣僚経験者)をはらむ。

 そこで首相は無派閥議員の取り込みをもくろむ。とはいえベテランは「派閥政治の尻ぬぐいをさせられるのか。要職を打診されても無条件では受けられない」と身構える。首相に遠心力が働く今、思い通りの人選をできるのか危うい状況だ。

 12日には、首相が離脱したばかりの岸田派にもパーティー収入の過少記載の疑いが判明した。計数千万円とみられ、自民筋は「首相は完全に足をすくわれた。安倍派一掃など言っている場合ではない」と皮肉る。

 局面

 「政治とカネ」問題でがんじがらめの政権を横目に、立民は対応に迷いがあった。「内閣不信任案を提出し対峙(たいじ)すべきだ」(若手)との主戦論が出る一方、仮に首相が不信任案を口実に「破れかぶれ解散」(立民幹部)の道を選んだ場合、次期衆院選を戦えるのか。候補者擁立作業は道半ばだ―。岡田克也幹事長や安住淳国対委員長ら執行部には慎重論が根強くあった。

 だが岸田派の過少記載疑惑で局面が変わった。「自民全体の問題だ」(安住氏)として、12日夕の幹部会合で意思統一を図った。終了後、泉健太代表は記者団に力説した。「大きな腐敗が明らかになった内閣に正当性はない。信任に値しない」

(共同通信)