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自民、岸田離れ鮮明 安倍派裏金問題 後手対応、政策停滞 エンスト 退陣論


自民、岸田離れ鮮明 安倍派裏金問題 後手対応、政策停滞 エンスト 退陣論 臨時国会が終了し記者会見に臨む岸田首相。左端は松野官房長官=13日、首相官邸
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党内で「岸田離れ」が鮮明になった。異例の年末人事で、政権を直撃した安倍派の裏金疑惑を乗り切ろうともがく岸田文雄首相。だが泥舟に乗るのを忌避され、内閣の要である官房長官の人選で難航した。混迷により重要政策を進める力も失い、「岸田丸」は針路を見いだせずにいる。 (1面に関連)
 「官房長官を引き受けてほしい」
 12日昼、衆院第2議員会館。首相の最側近・木原誠二幹事長代理が、浜田靖一前防衛相を訪ね頭を下げた。無派閥で当選10回の浜田氏は過去に国対委員長も務め、与野党に幅広い人脈を持つ。首相サイドは、更迭する松野博一氏の後任に適任と見込んだが、浜田氏は「できない」と固辞した。
 松野氏や西村康稔経済産業相ら安倍派4閣僚が抜ける穴を、首相は無派閥議員や閣僚経験者を中心に補充しようと当て込んだ。しかし政権の存続が懸かる「危機」(公明党幹部)の下、進んで「火中の栗」(ベテラン)を拾おうとする人材は容易には見つからなかった。官房長官については自身の出身派閥・岸田派に頼らざるを得ず、林芳正前外相を起用する意向を固めた。
 岸田派関係者は「実は浜田氏以外にも2、3人に断られた。もう訳が分からない」と振り返った。立憲民主党が提出した内閣不信任決議案は13日、否決された。首相は夜の記者会見で「信頼回復へ火の玉になって取り組む」と力を込めたが、野党は「火だるまの間違いだろう」と皮肉る。
 混乱は政策課題の停滞を招いている。
 最たるものが防衛増税の開始時期だ。自民の宮沢洋一税制調査会長は12日、記者団に「首相には今年決めた方がいいという気持ちはあった」と明かした上で「昨今の政治状況」を理由に、来年に持ち越すと説明した。
 ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」凍結解除を巡る自民、公明、国民民主の3党協議は「エンスト寸前」(閣僚経験者)。責任者の萩生田光一・自民政調会長が辞意を固めたため、国民幹部は「前提条件が変わった」と二の足を踏む。
 次期戦闘機など国際共同開発する装備品の第三国輸出も、弱り目の自民に対し、公明が慎重姿勢に転じた。医療機関の収入に当たる診療報酬の改定は、週内に予定していた決着が来週にずれ込む可能性が出ている。
 中央省庁の幹部は「官邸にアポイントが入らない」とぼやく。官邸筋は「政策推進力はもはやゼロに近い」と嘆いた。
 政権基盤が揺らぐ中でも、自民内では表立って「岸田降ろし」の風は吹いていない。ただ裏金疑惑で後手対応を繰り返す首相に対し、不満は確実に充満しつつある。
 石破茂元幹事長は、来春に見込む2024年度予算成立後の退陣は「ありだ」と言及した。茂木派中堅も「民間企業で取締役が一斉に辞めるのに、社長だけ居残りますなんて株主総会を通らないだろう」といら立つ。
 首相周辺は「何とか乗り越えたい」と刷新人事に希望を託すものの、自民幹部は「人事で全てが解決するとは誰も思っていない」と打ち明ける。
 岸田派にも政治資金収支報告書の過少記載の疑いが発覚するなど、「政治とカネ」問題はどこまで波及し、いつ収束するか分からない。14日に東京地検特捜部が強制捜査に踏み切るとの観測が飛び交う中、立民幹部は予言してみせた。「来年1月の通常国会召集を待たずに、政権は倒れているかもしれないな」