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官邸、判断ミス重ね 安倍派「5人組」一掃 今春 進言に対応せず 捜査進展後も場当たり 好機見送り 後の祭り 不協和音


官邸、判断ミス重ね 安倍派「5人組」一掃 今春 進言に対応せず 捜査進展後も場当たり 好機見送り 後の祭り 不協和音 認証式を終え、記念撮影する(左から)斎藤経産相、松本総務相、岸田首相、林官房長官、坂本農相=14日午後6時11分、首相官邸
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相は、自民党安倍派の裏金問題で判断ミスを繰り返した。早い段階から情報に接し警鐘を鳴らされたが、リスクを摘み取ろうとせず、安倍派「5人組」を重用。疑惑表面化後も場当たり的に対応した。背水の覚悟で臨んだ刷新人事は禍根を残し、行き詰まる。舞台裏を検証した。 (1面に関連)
 「安倍派は厳しい。問題が表に出る前に手を打つべきです」
 今春、自民筋は首相に提案した。安倍派は昨年11月、政治資金パーティー収入の政治資金収支報告書への過少記載で刑事告発された。告発状は「不記載分が高額で、裏金になった可能性がある」と指摘していた。
 自民筋が進言したのは、首相のウクライナ訪問や、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)開催が政権の追い風になるとして、一部で衆院解散・総選挙への期待が高まっていた時期。「解散すれば議員も入れ替わり、人事で安倍派を外す好機だ」とけしかけた。しかし首相の反応は鈍く、解散は見送られ、通常国会は6月21日に閉幕した。
 9月、内閣改造・党役員人事を迎えた。首相は来年の総裁再選への地固めを優先し、安倍派の意向を丸のみ。今や疑惑の渦中にある5人組を続投させた。党幹部は「それだけ最大派閥の力は強かった」と振り返る。
 11月、東京地検特捜部が派閥担当者を任意で事情聴取したことが判明した。ここでも首相の危機感は乏しく、国会では「各派閥が説明責任を果たすべきだ」と人ごとのように答弁した。
 12月に入ると裏金疑惑の報道があふれ始めた。「メディアは特捜部に餌を与えられて書いているだけだ」。首相周辺は官邸の見通しの甘さを全く省みず、居直った。
 「4千万円以上のキックバックをもらった安倍派議員が立件されるかもしれない」。党側からは警告も寄せられたが、首相はパーティー自粛指示や岸田派離脱表明と「急場しのぎ」(ベテラン)に終わった。
 安倍政権を知る古参議員は「官邸の危機管理が全く機能していない」と嘆く。象徴的なのが8日の衆院予算委員会だ。政治資金の扱いを巡り、各派の閣僚の答弁がばらばらで、野党に追及の隙を与えた。終了後、首相は珍しく声を荒らげた。「こんな体たらくじゃ政権が持たないぞ」。慌てた秘書官が調整に乗り出したが、後の祭りだった。
 官房長官だった松野博一氏ら政権中枢を裏金疑惑が直撃すると、首相への風当たりはさらに強まる。要職に就く5人組の一掃が不可避の中、焦点は人事の範囲だった。
 ここで首相の意図が思わぬ反発を招く。首相は「問題を調べる時間を与える」目的で安倍派の政務三役15人に退いてもらうつもりだった。だが10日「問答無用の安倍派切り」との観測が急拡大。安倍派1期生の政務官は「十把ひとからげで捨てるのか」と猛反発した。
 若手の意を受け、萩生田光一政調会長が動いた。11日に「1期生の政務官6人は疑惑とは関係ない。そこまで広げる必要はありますか」と首相に直談判。一転して大半が続投となった。
 14日、人事を終えた首相は党内の不協和音を振り払うように「党全体が一致結束していくことが重要だ」と訴えたが、求心力低下は明らかで言葉がむなしく響いた。早期解散を求めた自民筋は悔やむ。「5回ぐらい危機感を伝えたのに、首相は動かなかったんだ」