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クラシック 渡久地 圭 琉球芸能の底力から刺激


クラシック 渡久地 圭 琉球芸能の底力から刺激 琉球古典音楽・舞踊とオーケストラが共演した「おとゆいクラシックコンサート」=1月8日、那覇文化芸術劇場なはーと大劇場(田中芳撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 新型コロナが5類になり県内のクラシック音楽公演は止まっていた分を取り戻さんとばかりに盛況である。その数に比して鑑賞できた公演が少なかったことをご了承いただきたい。
 年明けすぐに「おとゆいクラシックコンサート」が開催された。音の訛(なま)りをテーマに、ウィーンと琉球の伝統を軸にした新コンセプトの公演でウィーン交響楽団からのメンバーとともに県内実演家が独自の響きを奏でた。故中村透氏の「かぎやで風」における舞踊や地謡、「こうもり」では素晴らしい案内役を務めた嘉数道彦など琉球芸能実演家たちの底力にウィーンからの音楽家たちも大変に刺激を受けていた。
 この公演でもソリストを務めた喜納響が同月リサイタルを開催。国内のコンクールで優勝や上位入賞と実績を重ねる安定した歌唱で魅了した。2月には下里豪志のピアノリサイタルを聴いた。確実な前進を聴き取りつつも、作曲家や作品自体の声や音をより聴きたいと思ったことも事実で、パリでの修行に期待したい。
 3月琉球交響楽団定期を名護で鑑賞。ソリストに九州交響楽団首席クラリネット奏者宇根康一郎を迎えたモーツァルトは宇根の美しい音色に乗せてビジョンがはっきりと伝わる好演だった。比して「ベト7」は同じテクスチュアの繰り返しが多用され残念に思った。
 6月にはバイオリンとピアノのデュオで高宮城凌・愛と、ウィーン・フィル元首席ペーター・ヴェヒターのリサイタルを聴いた。高宮城兄妹は安定感が増し、そこをベースとしつつももっと若い時にはあった瞬時のひらめきのようなフレーズに期待したい。80歳を超えるヴェヒターは完全なウィーンの響き・訛(なま)りでウィーン・プロを展開ししみじみと圧巻の演奏。
 8月は台風をくぐり抜け葵トリオがワークショップとリサイタルを実施。若い奏者がみるみると変化していく様子や公開リハーサルから、自由闊達(かったつ)な彼らの演奏の秘密を垣間見られた気がする。10月は本部町で琉球交響楽団のしまくとぅば普及促進をテーマにした公演も観たが、「しまくとぅば普及」というコンセプトが企画として不十分だったことが気になった。楽友協会おきなわ主催公演で琉響初登場の指揮者角田鋼亮は推進力のあるリードで好演したが、メインプロ「沖縄交響歳時記」の作品そのものの持つ危うさ(作曲の「巧(うま)さ」故か沖縄の大切なメロディーの数々がコラージュの一素材のよう)が強調されて聴こえたことは印象的だった。これは作品の問題だろう。
 東京芸術劇場で開催されたオペレッタ「こうもり」には与儀巧もアルフレード役を歌い、ヒヤッとする場面もあったが美声を披露した。演出(野村萬斎)には疑問が多く、作品そのものの良さが伝わりきらない公演に肩を落とした。クラシック演奏にもその背後にある文化の受容や、作品に対する演奏家自身の態度が問われる新たなフェーズを沖縄から展開していくことに期待したい。(ビューローダンケ代表)