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HPV原因、喉のがん増加/ワクチンが予防の鍵/男性への接種に地域差


HPV原因、喉のがん増加/ワクチンが予防の鍵/男性への接種に地域差 中咽頭がんについて解説する北里大の山下拓教授=相模原市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸(けい)がん以外にもさまざまながんを引き起こす。喉の奥に発生する中咽頭がんもその一つだ。実は、HPVを原因とする中咽頭がんの国内の罹患(りかん)率が20年余りで約3倍に増加している。患者は男性が多い。予防には子宮頸がんと同様にHPVワクチンの接種が鍵を握るが、そもそもHPVと中咽頭がんの関連が知られておらず、男性の接種費用を助成する自治体も少ない。

早期発見困難

 中咽頭がんは、口の上部奥にある軟口蓋(こうがい)、口の奥の左右にある扁桃(へんとう)、舌の付け根(舌根)などにできるがんで、主な原因は飲酒や喫煙の影響とHPV感染の2種類とされる。国内の患者は推定で年間約5千人。近年は禁煙の影響で喫煙による発症が減る一方、HPV関連の患者が増えている。
 HPVは、外性器に感染している相手とのオーラルセックスや、喉に感染している相手とのキスを通じて喉に感染する。北里大医学部の山下拓教授は「患者増加の背景には、性行為の多様化もある。性器と咽頭はウイルスが持続感染しやすい部位のため、中咽頭がんに発展する可能性がある」と危惧する。
 中咽頭がんは、舌根や扁桃にある「陰窩(いんか)」と呼ばれる小さなくぼみの奥にHPVが侵入して発生するため早期発見が難しい。
 がん検診の対象にも含まれていないため、喉の違和感や痛みなどの症状が現れて発見されるケースが大半を占める。放射線治療や化学療法により生存率は高いが、味覚障害や嚥下(えんげ)障害などが残ることもあり、生活の質の低下に悩む人は多い。

公費助成

 HPVワクチンについては、接種した人の唾液内のHPV保有率が下がるというデータがあり、欧米では既に男性に対する定期接種が導入されている。世界保健機関(WHO)によると、英国やカナダでは学校での集団接種が進み、男性の接種率は2021年時点でいずれも70%を超えている。
 日本の場合、男性への接種は任意で全額自己負担だが、最近になって公費助成を導入する自治体が出てきた。このうち東京都中野区では、8月から都内で初めて小学6年~高校1年の男子を対象に助成を開始した。
 保健予防課の鹿島剛課長によると、子宮頸がん予防目的の女子への接種勧奨が再開された1年ほど前から、医師会や住民から要望が高まっていたという。「がんワクチンは10年、20年先を見越して助成を続けていくことが重要。他の自治体にも広がることを期待したい」と鹿島さんは話す。

認知度向上を

 山下教授は「将来のパートナーを守る気持ちで男性も接種を受けてほしい」と力を込める。だが、HPVワクチンを巡っては、自治体の情報が住民になかなか伝わらないジレンマもあるようだ。
 今年1~2月、厚生労働省が接種対象の女子と保護者計約2500人に行った調査では、51%が「ワクチンのリスクについて十分な情報がなく、接種する/させるか決められない」と答えた。
 一方、1741自治体の担当者への調査では「接種対象世代は行政との接点が少なく、個別通知以外に広く周知することが難しい」など、周知の難しさが浮き彫りになった。
 担当者は「リーフレットの活用拡大などに努めたい」としており、男女とも認知度の向上が大きな課題となっている。 (共同=寺田佳代)

<メモ>200種類以上の型

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸(けい)がんのほか、中咽頭がんや肛門がん、尖圭(せんけい)コンジローマなど多くの病気の原因となる。200種類以上の型があり、発がん性のある高リスク型と良性腫瘍を引き起こす低リスク型がある。大抵は免疫がHPVを排除するが、感染状態が長く続くと発がんの可能性が高まる。
 子宮頸がん予防を目的とした国内でのHPVワクチンの定期接種は2013年、小学6年~高校1年相当の女子を対象に始まったが、健康被害の訴えが相次ぎ、国が積極的勧奨を中止。有効性や安全性が確認されたとして22年4月から勧奨を再開したが、接種率は伸び悩んでいる。