<金口木舌>まっすぐな目


社会
<金口木舌>まっすぐな目
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

いつの頃からか、講演会で大画面のスクリーンに資料を映しながら話す講師が増えた。難解な話もグラフやポンチ絵を見ながら聞くと理解しやすい。半面、資料ばかりを見て講師の顔を忘れてしまうこともしばしば

▼だが、その日は違った。ヤングケアラーに関するシンポジウムで大学生の仲宗根杏珠(あんじゅ)さんが当事者として登壇した。経歴などの資料はわずか6枚。両手でマイクを握りしめ、とつとつと体験を語った
▼父と母は精神疾患。両親の離婚後は自傷を繰り返す母と2人で暮らした。幼い頃は境遇の過酷さに気づかなかった。気づいても相談できず、気に掛けてくれる大人にも素直に「助けて」と言えなかった
▼抑揚はなく淡々とした口調。それでも一つ一つの言葉が心に落ちていく。母と離れる時の葛藤や罪悪感まで、聞き手も自分のことのように心が揺さぶられる。目の前で発せられる言葉には力がある
▼仲宗根さんが訴えたのは「家族丸ごと支援」。子どもを守るには家族を守ることが欠かせない。その言葉とまっすぐな目は忘れられない。