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ミュージアム 誰でも使いやすく 障がい者視点で展示法改善 心理的な壁、可視化で解消


ミュージアム 誰でも使いやすく 障がい者視点で展示法改善 心理的な壁、可視化で解消 「“みかた”の多い美術館展」のために、絵画の見やすい位置を考える車いすの利用者(滋賀県立美術館提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ミュージアムを多様な人に利用してもらおうと、少数派のアクセシビリティー(使いやすさ)を高める動きが活発化している。身体的障害にとどまらず、発達障害の人が感じるような心理的バリアーなど、さまざまな「壁」を可視化し、解消する試みが進む。
 東京国立博物館(上野)は3月、聴覚や視覚が過敏な人を対象に、施設内の光の明るさや音の大きさなどの情報を示す「センサリーマップ」をホームページに公開した。感覚が過敏な人はこうした地図があると訪問前に対策を立てやすいという。
 同館教育課の増田万里奈さんによると、国内に同様の地図があるミュージアムはほとんどない。自閉症の当事者団体に協力してもらい、デジタルモニターの光が混じる空間や、ドアの開閉音が出る部屋など、刺激が生じやすい場所を調べた。
 感覚が過敏だと疲れやすいため、休める場所も地図にした。課長の鈴木みどりさんは「静かで休憩しやすいと思っていた場所が実は刺激が強いことも分かり、発見がたくさんあった」と明かす。騒がしい音が苦手な人もいれば、静かな場所を避けたい人もいる。客観的な情報を示し、利用者が心地よい場所を選べるよう意識した。
 心理的なバリアーに着目した取り組みもある。全国7カ所の国立美術館は、初めての場所を不安に感じることがある発達障害の人などに向けて、各施設を紹介したガイド冊子「ソーシャルストーリー」を作り、公式サイトなどで公表している。訪問前の準備から館内の過ごし方まで、写真と平易な日本語で説明した。
 企画と編集を担当した国立アートリサーチセンター(東京)の研究員鈴木智香子さんは「障害のある人以外にも可視化されにくいバリアーはあると思う。美術館をどう開いていけるかは課題です」と指摘する。
 美術館になじみのない人の視点やニーズを展示に反映し、従来の鑑賞法を問うのは滋賀県立美術館(大津市)の「“みかた”の多い美術館展」。育児中の家族や知的障害のある人、県内に暮らすブラジル人らが企画づくりから参加してアイデアを出した。
 静かにすることが望ましいとされる展示室で「おしゃべりOK」と会話を促したり、解説にルビを振ったりしたほか、車いす利用者の目線に絵画の展示位置を合わせるなどした。
 博物館法は、博物館活動の目的を「一般公衆の利用に供し」などと定める。「それは『誰もが使えるようにする』とも言い換えられますが、実際はそうではない」と同館学芸員の山田創さん。「『みんな』が来るには美術館から遠い人に、少しおせっかいなくらいに近づく姿勢が必要ではないでしょうか」と話した。