<金口木舌>大衆の不利益性を考え


社会
<金口木舌>大衆の不利益性を考え
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 タイヤメーカーのブリヂストンは、元は足袋を作っていた。1923年の関東大震災の復興で地下足袋は重宝されたが、工場全焼の不運に遭う。災難に乗じて粗製乱造する十数社を創業者の石橋正二郎は特許権侵害で訴えた。新聞に載った主張がふるっている

▼「われわれは一企業の私利私欲のため係争しているのではない。当社の地下足袋は労働者階級の履物であり、自信をもって品質優秀のものをつくっている」。黙認すれば労働者は「粗悪品を履くことになり、大衆の不利益となる」。評論家の佐高信さんが紹介していた
▼今や人々の足と言えば車となるが、ダイハツ工業は大衆の不利益を考えなかったか。安全性試験など品質不正で全工場が停止した
▼同社の奥平総一郎社長は「経営陣が現場の負担やつらさを把握せず、放置してしまった」と言う。「大衆の利益」も一緒に放置したのではないか
▼石橋は訴訟の真意をこうも述べた。粗悪品を一掃し「日本産業に貢献せんとするにある」。ものづくりに際し見失ってはいけない経営理念だろう。