<金口木舌>小澤さんとキャラウェイ


社会
<金口木舌>小澤さんとキャラウェイ
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 クラシック音楽の楽しみ方に名曲の聴き比べがある。ベートーベンの「第九」なら、ドイツの巨匠フルトベングラー指揮による1951年の録音盤が名高い

▼クラシックに疎くても、小澤征爾さんの独特な風貌は誰でも知っていよう。2002年、長野県で「第九」を演奏し、CDになった。フルトベングラー盤と聴き比べたことがある
▼1962年10月、小澤さんは演奏会のためNHK交響楽団と共に沖縄を訪れている。当時27歳。本紙は「沖縄のファンに心ゆくまで音楽を楽しんでもらおうと非常な張り切りようだった」と報じた
▼会場は米軍キャンプ瑞慶覧内の体育館。幕開けで米国国歌と共に「君が代」を演奏した。その場にはキャラウェイ高等弁務官もいたようだ。米統治下、離日政策に固執した「沖縄の帝王」は心中穏やかでなかったろう
▼「音楽は、言葉も国も宗教も政治も超えて、人と人の心をつなげることができる」という言葉を残し、小澤さんが逝った。金網の中でタクトを振る姿を想像しながら、彼の「第九」を聴き直している。