<金口木舌>津波警報始末記


社会
<金口木舌>津波警報始末記
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 出勤準備でひげを剃(そ)っていた時だ。突然スマートフォンのチャイムが鳴り、家の外ではサイレンが響く。慌ててスマホの画面を見ると「津波警報発表」という

▼まずは落ち着こう。洗顔を終え、家族に避難を呼びかけた。反応は鈍い。「ここは標高3メートル。大丈夫だ」と父はおうように構える。娘も腰が重い。そこを言いくるめて車で避難所へ
▼母は「保険証と印鑑を持ってきた」と言い、こう続けた。「トートーメーも持ってこようと思ったけれど置いてきた。『避難するのでお家を見守ってください』とお願いした」。戦場で避難民がトートーメーを携えていたという沖縄戦の逸話を思い出した
▼道が混んでいる。これはまずい。カーラジオのスイッチを入れると、いつもは明るく話すアナウンサーが緊張感を帯びた声で避難を促しながら「深呼吸をしてください」と言い添えた。この一言に救われた
▼警報が注意報となり、職場へ。車での避難は正しかったのか自問し、深いため息。頰をさすると、手のひらに剃り残しのひげが触った。