<金口木舌>恍惚の人が投げかけたもの


<金口木舌>恍惚の人が投げかけたもの
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 有吉佐和子さんの小説「恍惚(こうこつ)の人」は、認知症を患うしゅうとを介護する女性が主人公。しゅうとは排泄が難しくなり、街中をうろつき一時行方不明になる。作品発表は1972年。介護は嫁の役割とされる時代だった

▼女性は共働き。疲弊し、老人ホームへの入居を申し込むが断られる。小説は家族介護の限界を突きつける。読んでいて身につまされた
▼友人に会うと、話題に上るのは親の介護だ。ヘルパーが高齢者宅を訪れてケアをする訪問介護だけではままならない。きょうだいのうち、主な介護者が仕事を辞める例も珍しくない
▼厚生労働省は2024年度の介護報酬改定で、訪問介護の報酬を減額した。大手を含む訪問介護事業所全体で利益率が高いというのが理由。零細事業所は昨年、全国で少なくとも67件が倒産した。報酬減額で介護現場の人手不足が加速しそうだ
▼そうなれば訪問回数が減り、ケアが行き届かなくなる。親族間のいさかいも増えそうだ。何より苦労を重ねてきた親世代の実りある余生がいっそう遠のくのではないか。