<金口木舌>ちょちょ切れる涙、黄色いカレー


<金口木舌>ちょちょ切れる涙、黄色いカレー
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 20年ぶりに出合う中部の街。以前から古びていた建物が多少やつれながらも道々に残っていた。「やあやあ」と幼なじみに会ったような気がした

▼時は移り、街の顔は変わっていく。5月末、嘉手納町で創業51年の居酒屋「創(そう)」が閉店した。片付けが進む店内に、店主の仲間和雄さんは「涙がちょちょ切れそう」。前身の「養老乃瀧」は嘉手納で復帰後初の居酒屋だった

▼宜野湾市の「三角食堂」も59年の歴史を閉じた。普天間社交街の入り口の五差路の一角にあるY字路に位置し、ヒカンザクラを抱く三角形の土地に建つ。故郷の兵庫県西脇市から始まった連作「Y字路」がある画家の横尾忠則さんなら、この地をどう描くか

▼閉店を前に食堂を訪ねた。ナスを素揚げしていた3代目は取材が多くて断っているという。周囲の開発に伴う閉業だそう。黄色いカレーに素朴な煮付け、ごちそうさまでした

▼米軍基地に囲まれた街と苦楽を共にしたであろう。私たちが知らない物語も眠っているはず。周囲を幾度も歩きながら食堂がたどった道を想像した。