<金口木舌>ものが語るもの語り


<金口木舌>ものが語るもの語り
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 断水危機はどこへ行ったやら。記録的大雨続きで例年の3倍超の総雨量を記録した今年の梅雨。夏の炎天が到来し、水不足の記憶は遠ざかる。「のど元過ぎれば」の類いだ

▼渇水時、忘れられた歴史が顔を出した。沖縄市などにまたがる倉敷ダムの貯水率低下で戦前の倉敷集落のウヮーフール(豚小屋)が姿を現した。宮古出身者の在沖野崎クイチャー保存会による雨乞いの舞が天に届いたか、大雨で再び水面下に沈んだ

▼その近くの米軍嘉手納弾薬庫知花地区。沖縄市立郷土博物館の調査で、琉球王国時代に植えられた沖縄最古級のイヌマキ(チャーギ)などが残されていたと分かった

▼木材調達のために地域で管理され、今では見られなくなった「杣山(そまやま)」の環境が色濃く残る。首里城の建材に重用されたチャーギ。今回見つかったのは直径45センチ余、樹齢200年超と推定される

▼歴史をくぐり抜けたものがふいに現れ、言葉以上に物語る。倉敷の空にはひときわ大きな米軍機の轟音(ごうおん)。人の営みを伝えるものたちの語りを聞き逃さぬよう心を傾ける。