＜金口木舌＞深い孤独の中で

　東京都練馬区で6月、アパートのごみ箱に男児を遺棄し殺害しようとしたとして、殺人未遂の容疑で母親が逮捕された。母親は風呂場で産んだ日に男児を捨てた。「出産したことがばれたくなかった」と供述している

▼乳児の遺棄が後を絶たない。2月には娘の遺体を寺に埋めたとして、死体遺棄の疑いで山梨県の女性が逮捕された。命を奪おうとする行為は許されないが、独りでの出産は心細かっただろう

▼熊本県の慈恵病院が匿名で赤ちゃんを受け入れる「こうのとりのゆりかご」の運用開始から17年になる。今も遠方から駆け込む人も少なくない。母親は困窮など複数の問題を抱えているケースが多いという

▼同様の事案が起きるたび、父親の不在が気になる。罪を問われるのは大抵の場合、子を宿す女性の方だ。生まれたばかりの子と母親を放置した父親の責任も厳しく問われるべきではないのか

▼練馬区の事案では男児は無事だった。里親や養子縁組など育児の支え手はある。何よりも男児が愛情を受けて育っていくことを願わずにはいられない。