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被災地のBRT、運行状況はいかに? 読者からの声を受けて調べました(河北新報提供 ~パートナー社から~)


被災地のBRT、運行状況はいかに? 読者からの声を受けて調べました(河北新報提供 ~パートナー社から~) 地域住民の生活の足となっているBRT気仙沼線=宮城県気仙沼市のJR南気仙沼駅
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  東日本大震災13年に合わせ、河北新報など読者参加型の調査報道に取り組む全国20の地方紙が実施した読者アンケートの自由記述に、バス高速輸送システム(BRT)の運行状況を尋ねる声があった。震災で被災したJR気仙沼線と大船渡線の代替手段として導入されたBRTは、ローカル線の存廃が議論される中、注目が集まる。被災地の足としてどのように利用されているのかを探った。

(編集局コンテンツセンター・吉江圭介、藤沢和久、気仙沼総局・藤井かをり)

高校生は通学、お年寄りは通院に利用

 宮城県気仙沼市本吉町の石川イネ子さん(80)にとって、気仙沼線BRTは日々の暮らしに欠かせない存在となっている。

 通院先の気仙沼市立病院は自宅から約16キロ離れている。5年ほど前に運転免許証を自主返納したため、病院への行き来はもっぱらBRTが頼りだ。眼科や買い物に行くのもBRTを使っている。

 線路跡の専用道を中心に走るBRTは渋滞に巻き込まれず、バスよりも定時性に優れる。石川さんは「タクシーやバスより安くて便利。車を運転しない高齢者には助かる」と語る。

 2011年の巨大津波で線路が流出した気仙沼線(72・8キロ)。被災した柳津―気仙沼間の55・3キロでBRTの運行が始まったのは12年8月のことだった。当時、鉄路復旧を望む市民も多く、BRTに注がれるまなざしは冷ややかだった。

津波で住宅地まで押し流され、無残な姿をさらすJR気仙沼線の車両
=2011年3月12日午前5時40分ごろ、気仙沼市

 11年以上が経過した今、BRTは「住民の足」として定着している。駅の数は鉄道時代に比べて7駅増えて25駅。運行本数も最大3倍に増えた。15分間隔で運行する朝夕は、沿線の気仙沼高や本吉響高の生徒らが多く利用している。

 バスの機動力を生かし、専用道から離れた気仙沼市立病院などを経由できるのも魅力だ。「市民の生活に根付き、地域の公共交通としてなくてはならないものになった」。かつて鉄路復旧を訴えた菅原茂市長は今、BRTを好意的に受け止めている。

災害公営住宅の近くを走るBRT気仙沼線=8日午前6時55分ごろ、気仙沼市

長距離移動を要する「観光面」では不利

 一方、「観光」という視点でBRTを見ると課題も浮かび上がってきた。気仙沼市中心部から南に約15キロの「大谷海岸駅」。震災前に多くの海水浴客でにぎわったが、関係者は「BRT運行で乗降客がめっきり減った」と語る。

 きめ細かく地域を回れるBRTの利点が、長距離移動を要する観光面では不利に働いた。今、併設する道の駅「大谷海岸」の利用客の大半はドライバー。「感覚としては9割以上が車を利用している」と運営会社の斎藤守社長(62)が語る。

 10年に7万3000人いた市の人口は、5万7000人にまで減った。今後少子高齢化が加速してメーン客の高校生が減れば、BRTの減便も現実味を帯びる。「住民の足」の維持には、観光客を含む利用者増の取り組みが必要になる。

 気仙沼市交通政策課の担当者は「駅と観光地を結ぶタクシー割引券をアピールしたり、周遊スタンプラリーを開催したりして観光客にBRT利用を促したい」と話している。

BRTの大谷海岸駅。道の駅大谷海岸内にある=7日午後0時30分ごろ、気仙沼市本吉町

バス高速輸送システム(BRT)】 バス・ラピッド・トランジットの略で、バス専用道やバスレーンなどを組み合わせたシステム。従来のバスより目的地まで速く乗客を運べるほか、時間通り運行しやすい。鉄道に比べ、ルートの設定や運行本数の自由度が高い。気仙沼線BRTで、柳津―気仙沼間の所要時間は、最短で鉄道より55分遅い1時間48分。鉄道時代に1日22本だった運行本数は、69本に増えた。1日1キロ当たりの利用者を示す平均通過人員(輸送密度)は2022年度、185人。前年度に比べて11人増えた。鉄道維持の目安とされる2000人を大幅に下回った。

「速達性失われ、厳しい状況」宮城大・徳永幸之教授

 東日本大震災で被災したJR気仙沼線と大船渡線の一部にBRTが導入され、10年以上がたった。全国各地で赤字ローカル線の存廃議論が本格化する中、鉄路以外への転換事例として注目を集める。BRTの現状と課題について、宮城大の徳永幸之教授(交通計画)に聞いた。

(編集局コンテンツセンター・小沢一成)


 ―震災被災地のBRTの現状をどう見ているか。


「非常に厳しい状況だ。確かに『BRTになって良くなった』という声はある。しかし、気仙沼線は駅(停留所)を増やした結果、速達性が犠牲になった。一般道も走るため、専用道に戻るのに時間がかかる。鉄道と比べると、長距離の速達性は完全に失われている」


 ―BRTの持続可能性は。

「バス事業は圧倒的に人件費がかかる。事業規模にもよるが、全体の6、7割をドライバーの人件費が占める。自動運転にすれば人件費は削減できるだろうが、完全無人化は専用道でないと難しい。一般道と専用道を行き来する現在の形態では難しい」


 ―JR九州は昨年8月、福岡と大分を結ぶ日田彦山線で、豪雨被害に伴う不通区間をBRTで復旧させた。被災鉄路のBRT転換は今後も広がるか。


 「正直なところ厳しい。ローカル線のほとんどは設備投資をできておらず、あまり良い線形(路線の形状)ではない。BRTが駅で停車することを考えると、(速達性で)車にも勝てず、うまくいくケースは非常に限られるのではないか」


 ―地方の公共交通を維持するために必要な視点は。

 「まちづくりとセットで考える必要がある。現状は病院や県民会館といった施設整備が先に決まり、公共交通を後から考えているため、公共交通の使い勝手が悪くなっている」
 

 ―BRT転換で観光面での影響は出るか。

 「ネットワークとしてつながっている鉄路であれば、(観光客を運ぶため)イベント列車を走らせることもできる。BRTと乗り継ぐことになれば、観光客が訪れにくくなって候補地から外してしまう恐れもある。鉄道で行けるというのは一つの価値だ」

 [とくなが・よしゆき]東北大工学部卒。運輸省第三港湾建設局神戸調査設計事務所、東北大大学院准教授などを経て、08年4月から現職。64歳。新潟県長岡市出身。

 

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