米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が、全国の小学校に野球のグラブを寄贈して約半年たった。40代女性の読者から「息子が通う小学校でガラスケースに展示されているのを見た。子どもが自由に使えないのは残念で、『野球しようぜ!』という大谷選手の思いからもかけ離れているのでは」との疑問が寄せられた。そこで京都と滋賀の小学校に聞いてみた。大谷グラブ、活用してますか―。(岡本早苗、生田和史)
◆ショーケースに「鎮座」
5月下旬、京都市内のある小学校にグラブの写真撮影を依頼すると、校長室に案内された。「今は使っていないんです」。教頭が事務用のキャビネットの引き出しを空けると、大谷選手の写真カードを付けたままの状態で三つのグラブがしまわれていた。
グラブは1月中旬に、この小学校に届けられた。当初は全校集会で児童に紹介し、職員室前で順番に触ってもらっていたが、年度が替わって管理しやすい校長室に移したという。住宅街にある小学校の運動場は広さが十分でなく、野球ボールの使用は児童の安全上、制限せざるをえない。児童から「大谷のグローブでキャッチボールしたい」との声が上がったが、教頭は「残念やけどできひんねん、と説明した。心苦しいことです」と打ち明けた。
安全面の配慮から運動場でのキャッチボールを禁止しているという学校は少なくないようだ。大津市内の小学校でも、グラブはガラス製のショーケースの中にあった。「一定期間展示し、その後みんなで使用します」と説明書きを添えたものの、キャッチボールを制限している校内でどう使うかは工夫が必要で、体育の授業のほか、クラブ活動や委員会での使用を検討している。
◆どう公平に、安全に使うか
児童数の多い学校では、3個という数もネックになっている。多くの小学校では、授業で野球をすることがなく、もともとグラブの備品がない。京都市内の別の小学校では、1日1学級ずつ全学級にグラブを回したが、その後はグラブを手にする児童もほとんどおらず、職員室の一角にあるかごの中にひっそりと収まっている。校長は「『野球しようぜ』との大谷選手の思いに応えたいが、800人以上いる児童にどう公平に使ってもらったらいいか妙案が浮かばない」と戸惑っていた。
一方、日常的に児童が手にしている学校もあった。6月中旬、中京区の朱雀第七小では、休み時間になると、グラブをはめた児童が校庭に駆けだしてきた。女子の一人が「どうやってはめるん」と男子に聞きながら珍しそうにグラブを装着し、柔らかいゴムボールを友人と投げ合った。
6年代﨑灯さん(11)は「自分からキャッチボールすることって今までなかった。やってみると楽しい」と笑顔。大谷選手に憧れている竹田悠真さん(11)も「グラブの順番が回ってくるのが待ち遠しい」と目を輝かせた。
同小では当初、学習時間を使って学級ごとに使用した。本年度は休み時間にも使えるよう、校庭使用の約束事を改定。もともとドッジボールと、鬼ごっごなどのエリアを低・高学年でローテーションしていたが、5月以降は新たにキャッチボール用のエリアを校舎沿いに設定した。増田茂樹校長は「児童の安全が第一だ。とにかくグラブが使えるよう、教員で相談した」と話す。1日が終わると隣のクラスに回し、13学級を巡回させている。
◆おやじの会、39個集め大会企画
グラブを使う場所に体育館を充てた学校もあった。左京区の市原野小では、体力増進や級友との交流を図る目的で、授業や行事以外には使えない体育館を休み時間に開放している。1クラス単位で使用枠を割り当て、週に1度程度、担任の見守りのもとバスケットボールに興じるほか、大谷選手のグラブでキャッチボールをする児童もいるという。
「9個あれば野球ができる」。山科区の山科おやじの会連絡会は6月、希望する小学生を募って大谷グラブを使った野球大会を東野公園で企画した。勧修小、小野小合同で3月、グラブを使ってゲームをしたのを機に、次は野球をしてみたいとの声が上がったからだ。大会はあいにくの雨で延期になったが、当日は区内の全13小から39個のグラブを借りることができた。企画した中本貴久さん(45)は「大谷選手の『野球しようぜ』のメッセージに答えたかった。子どもたちは楽しみにしていたので、いつか実現させたい」
大谷グラブの使い道について疑問を寄せてくれた女性に取材結果を伝えると、「ルールを決めて使えている学校もあるんですね」と感心した様子。その上で「キャッチボールすらしたことがない子どもが増えている中、やはり使ってこそ価値があると思う。どうしたら譲り合って使えるか、学校は子どもと一緒に考えてほしい」と願っていた。
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