バー経営もする芸人。いくつもの仮面を持つお祭り男の「自己分析」に迫る<ノーブレーキ ポジティブあゆむさん>◇沖縄芸人ナビFILE.17


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県内のお笑い三事務所(FEC・オリジン・よしもと沖縄)を「初恋クロマニヨン」の松田正(まつだ・しょう)さんが回り、ナビゲーター役として芸人仲間を直撃します!今回はオリジン・コーポレーション所属の「ノーブレーキ・ポジティブあゆむ」さんに会ってきました。同世代でお互いをよく知る間柄ですが、どんな話をするのでしょうか!?

(執筆:フリーライター・饒波貴子)

「沖縄芸人ナビ」は「週刊レキオ」(毎週木曜発行)とも連動しています。毎月第1週目のレキオで関連記事が読めます。ぜひご覧ください。

ポジティブあゆむさん(オリジン・コーポレーション所属(右)/http://origin-oze.com)とナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄所属/http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)。年齢も芸歴も近く、「はちノリ」というユニットも組んでいます。

いたずらしてされる、補い合うコンビ

松田ナビ:ノーブレーキは、器用なあゆむとパワーがあるブーブーのコンビ。芸人仲間に好かれる芸人。お互いを引き立てる工夫をしていますか?

あゆむ:狙ってはいませんが、僕らに合わないネタはやらないようにしています。ブーブーは台本に合わせて対応できるし、ネタ合わせして役割を入れ替えることもあるんですよ。

イベント出演時のノーブレーキ

松田ナビ:そうだよな、2人ともボケツッコミをやる。適性を見て役割を替えるんだ!

あゆむ:まず僕が重要な役をやって、本番はブーブーに替えてみて…覚えが悪いからどうしてもその順番になってしまう(笑)。でもブーブーはやるとなったら真面目にやるタイプ。仕事としての役割分担はできていて、計算しない。僕らはできない事も多いので、お互いが補い合っている面があると思います。僕は客観視できないところがあって、気付いても止められない。それをブーブーが止めて笑いに変えたりしてくれます。

松田ナビ:あゆむはオールラウンダーだけど突き進んでしまうんだな。ブーブーは意外に真面目(笑)。あゆむが猛獣使いのイメージだけど、実は逆だったりするのかも!?

あゆむ:逆だと思います。僕の方がふざけるしアブノーマル。面白いと思ったら突き進む僕を、ブーブーは客観視します。

松田ナビ:仲がいいコンビ。芸人活動が長くなると相方としゃべらなくなるのが普通だと思うけど、仲良くなる秘訣教えて(笑)。

あゆむ:相方と仲良くなりたいんですか(笑)? 僕は意地悪ないたずらっ子で、後輩にもいたずらします。ブーブーはめちゃくちゃいいリアクションを返してくれるので、あいつが僕を嫌いになったり、「いたずらするな!」って本気で怒ったら変な距離感ができて仲が悪くなると思います(笑)。
しょうさんは技巧派タイプで、いたずらしませんよね!?

松田ナビ:いや、俺も結構いたずらする。でもするのは、相方の新本だけにだな。

あゆむ:新本にいたずらしてもあまり計算できないというか、点数が低そう(笑)。いたずらして損したと思う時ありません(笑)!?

松田ナビ:いっぱいある(笑)!

あゆむ: 新本にもっといじりがいがあったら、今より仲が良かったはず(笑)。

松田ナビ:確かに(笑)。ブーブーは爆発力があり、受け身としての力が群を抜いているかも。ノーブレーキといえば、ラジオの評価がめちゃくちゃ高いコンビでもあります。ラジオへの特別な思いは?

あゆむ:いろんな仕事の中でも、ラジオは好き勝手できて、普段考えていることをノンプレッシャーで出せる。FM NAHAの「オリジンアワー」は、もう10年くらいやっています。でも最初の頃は「全然面白くない!」と反感買いましたし、2〜3回クビなりましたよ(笑)。

松田ナビ:「オリジンアワー」には根強いリスナーさんがいるから、厳しい意見も出てくるだろうね。

あゆむ:そうなんですよ。振り返ると僕らラジオをあまり聞いてこなかったから、適当にキャッキャすればいいとナメていたと思います。最初クビになった時に悔しくていろんなラジオを聞いて学び、再びチャンスをいただきました。それからはオンエアチェックをして反省したり、もっといいフレーズはないかなと考えたり。意外と苦労しながら今に至っています。打ち合わせは全くせずにマイクがオンになったらしゃべり始めて、日常でメモしたことを話題にふくらませている感じです。

松田ナビ:ちゃんと準備してるな〜。30歳過ぎて、若いころよりしゃべりやすくなってきた感覚もない!?

あゆむ:しゃべりやすいです。年齢と共に説得力が出てきたんでしょうね、結婚もしましたし。

松田ナビ:そうね! 子どももたくさんいるし。

あゆむ:経験値が上がりましたしラジオは実生活が大事だと思え、いろんなところに行くようにしています。決めた訳ではないけれど自然発生的にお互いやっていて、メモを始めたのもラジオを聞き始めたのもブーブーが先。

松田ナビ:真面目だな(笑)。年齢的な説得力は理解できる。俺も二十歳そこそこの時に酒を飲む設定の漫才をやったら、お客さんは「お前ら飲み始めたばかりだろ」みたいな空気感があった。数年経って説得力が生まれ、笑ってもらえるようになったと感じたな。

転校で磨いたチカラ

松田ナビ:そもそもお笑いを始めたきっかけは?

あゆむ:自己分析したところ、転校が理由ではないかと思います。転入生って最初は口を聞いてもらえなかったりするので、友達を振り向かせるためにふざけていたんですよね。バラエティー番組も元々好きだったから、母親が笑うとうれしくて。母子家庭で、子どもながらに母親が笑うと安心していたので、その影響があってお笑いの道に進んだと思います。

松田ナビ:映画の『ジョーカー』みたいな話(笑)。笑いが処世術だったって事ですね。

あゆむ:はい。この社交性とウソくささは処世術(笑)。気に入られるためにエネルギー使って、番長のそばにずっといました。内気な性格だと不良になっていたかもしれないですけど、僕は外に向けられたので良かったと思う。テレビっ子だったので自分もテレビに出たいな〜って憧れて、高校生のころに縁があってFECに所属しました。でも多感な時期で遊びたかったので1年くらいで辞めて大学も中退しました。でも「やっぱりお笑いがやりたい!」と思い19歳の時にオリジンに入ったんです。

松田ナビ:学生時代は目立つ存在で、ウソくささが育まれたことでしょう(笑)。普段しゃべっているあゆむはウソくさくないけれど、お店で会うとウソくさい(笑)!

あゆむ:「GANAHA BASE」(那覇市久茂地)というバーを経営していますが、店にいる時は別人格(笑)。いろんな顔を使い分けることってありませんか?

松田ナビ:確かにあるけど、あゆむは顔の数が多そう! テレビ、披露宴司会そしてお店に立った時。しっかりと顔を使い分けていそう。

あゆむ:多いです。良くいうと憑依型!? だからウソくさくてペラペラなイメージだと思います。

松田ナビ:お店を始めたきっかけは? お笑いと飲食店経営、二足のわらじを履き、偉いです!

あゆむ:若いころ「ゆうりきや〜」さんに「笑築過激団のメンバーでバーをやっていた」という話を聞きました。「メンバーが働いているし、仕事がない若手を雇いたい」と言われて働きたいと思いましたが、実現しないまま。でもいい話だな〜と思い、それを継いだ形です。芸人活動だけで生活はできないのでバイトは必須ですが、仕事につながりそうな飲み会があると「お笑いの仕事です」ってウソをついて休んだ事もあったし、シフト調整も難しかった。周りに迷惑をかけて自分にもウソをつき…その状況が29歳まで続いたので、30歳を機に抜け出そう、一念発起しようと決めたんです。家族に借り入れして実行しましたが、勝算があったわけではなかったんですよ。

あゆむさん経営の「GANAHA BASE」で、後輩芸人で店長のTOMOKIさんと

松田ナビ:後輩たちを雇おうとか、みんなの働き口を作る計画があったんだ!

あゆむ:そうです。もっと言えば稽古が忙しくなると友達と疎遠気味になるので、コミュニケーションが取れる場にしたいな、という思いもありました。稽古終わりの22時オープンにすれば、来てもらえるので。

松田ナビ:あゆむがバーをやる前、「今やっているバイトを大切にしなさい」と後輩に言っていたのを覚えている。「長く続けていたらかわいがってくれるから、むげにするなよ」など話していた。芸人さんとしても社会人としてもしっかりやっていこう、という思いがあると感じました。食いぶちがないとお笑いを続けられないから、開店して芸人さんに働いてもらう体制を作ったのは、大きな事だと思います。これまで数々の芸人さんが働いてきました。

あゆむ:同じ事務所のリップサービス榎森とか、他事務所の芸人さんも働いてもらいましたよ。

松田ナビ:お店をやって笑いの方に活かされる面はありますか?

あゆむ:転校してウソくさい性格を築く原因になった子ども時代の周りの人たちが、今もお店に来てくれるのでつながりに感謝しているんですよ。酔っ払いのお客さんがみんなボケてくるから(笑)、お店でのスキルアップは期待できない気がします(笑)。

松田ナビ:酔っ払いってボケるよな!

あゆむ:でも僕のバーは芸人が働いているので、そことの会話でスキルアップがあるかもしれません。お客さんとしても芸人さんが来てくれますし。相方のブーブーもたまに1人で来ます。

松田ナビ:一緒に働くことで、信頼関係やチームプレイは培われるかも。でも相方がお客さんとしてバーに来るって普通ないと思うけど何なの(笑)!?

あゆむ:分からない。待ち合わせの合間に一杯らしいですけど照れますし、どっちかが現役辞めていないと成立しない設定ですよね(笑)。

松田ナビ:「浅草キッド」というビートたけしさんの歌の世界(笑)。あゆむをまとめると転校を繰り返して処世術を身に付け、お笑いを始めた。その社交性を活かしてバーを経営して芸人さんを雇って…流れはつながっているんだ!

あゆむ:バーを始めたことで、「アイツはもう芸人じゃなくて夜のヤツだ」みたいな声が聞こえてきた時はキツかった。でも5年もやっているので、両立できているのではないかなと自分では思っています。

目標はステキなユイマール

松田ナビ:沖縄のお笑い界をひょうひょうと渡り歩いてるように見えて、ノーブレーキは負けん気が強かったり、2人とも硬いポリシーがあるのかも。あゆむはバー経営とお笑いを両立するぞという強くてブレない意思があったから、批判的な意見に屈しなかった。ブーブーは時には誰の意見も聞かん、みたいな頑固さがある(笑)。貫き通しているコンビ!

あゆむ:プライドは高いかもしれないです。何のプライド!? って思われそうですけど(笑)。でもありがたいです。家庭を持ち子ども4人もいて、好きな事をやらせてもらっていますから。

次女はあゆむさんの丸顔ほっぺをコピー!?

松田ナビ:沖縄芸人さんの中では子だくさん。家族がいると、お笑いへの向き合い方も変わってきますか?

あゆむ:人生の主役が変わった気はします。目立ちたがり屋の方でしたが、今は多くの人から共感を得ている姿を家族に見せたい気持ちになりました。

松田ナビ:家族がエネルギーになっている! セールポイントはどこだと思いますか?

あゆむ:いただいた仕事の得点は、プラス1!

松田ナビ:なるほど。「120点やりますよ〜」というより「101点取ります」の方が信用できる! 最近はキックボクシングのリングアナもやっていましたね。

あゆむ:ずっとやりたくて2回チャンスが来たんですけど、勝手がわからなくて残念でした。経験して3回目も決まっているので、がんばります!

2019年10月、リングアナに挑戦!

松田ナビ:テレビ番組、QAB『ハピイレ』(毎週土曜日午前10時50分〜放送)で、あゆむも俺も天の声役。こういう仕事は初めてで試行錯誤しているけど、あゆむの声を聞くと「こんなバリエーションがあるんだ! こんな読み方するんだ!」と器用さに感心します。

あゆむ:ありがとうございます。僕、速読が得意で、詰まらずに読めるんですよ。天の声もVTRに合わせてナレショーン入れるの、好きな時間です。結婚披露宴の司会の時に新婦友人からの手紙の代読シーンも、見せ場だと思いがんばったら泣いてもらえました。

松田ナビ:では、これからの展望は!?

あゆむ:リップサービスの榎森がうらやましい。「せやろがいおじさん」動画で、全国区になりましたからね。沖縄を拠点に全国を目指したいです。

松田ナビ:それができるという事を榎森が証明した! リップサービスとノーブレーキは世代も近いし、切磋琢磨してきた仲間。榎森の活動を近くで見ていたらいろいろ考えるだろうし、相方の晋也も琉球新報の連載コラム「落ち穂」が面白い。リップは2人ともやっぱりすごいと、あらためて思う!

あゆむ:年齢重ねていろんな仕事にチャンスがあるんだ、と気付くようになりました。

松田ナビ:あゆむは人脈もあるから、チャリティー系などのイベント開催にも関わっていますね。

あゆむ:イベント制作にも興味があるので、自分で企画して仕事を作りたい。いろんな人に出演を依頼する事ですてきなユイマールができる、とイメージしています。目指すは株式会社ユイマール(笑)!

松田ナビ:ユイマールはいいね(笑)。あゆむはお祭り男みたいな感じもあってできると思う!

あゆむ:お祭りに出演した時とかに、技術スタッフさんの動きを見るのが好きなんです。イベント制作はやりがいを感じそうです。そしてしょうさんがやっている、ポッドキャスト番組『沖縄の風』に出演したいです!

松田ナビ:分かりました。一緒にやっている先輩2人(知念だしんいちろうさん、テレビディレクター神谷祐一郎さん)に伝えますので遊びに来てください(笑)。

【対談を終えて・・・】

☆あゆむさん☆
しょうさんと普通におしゃべりしながら、時間が過ぎる感覚でした。気付いたら終わっていたので、もう1回インタビューしてほしい(笑)。楽しかったです!

☆松田ナビ☆
ちょっとウソくさいお祭り男! これから躍動していく姿が見たいですし、一緒に切磋琢磨していきたいです! 今まで一番ナチュラルに楽しくおしゃべりできました。

【プロフィール】

★ポジティブあゆむ/ノーブレーキ
本名:我那覇 歩武(がなは・あゆむ)
生年月日:1985年6月18日
出身地:東風平町
趣味・特技:音楽鑑賞・読書・クロッキー・手品
Twitter:@ayumu_618

★松田 正(まつだ しょう)/初恋クロマニヨン
生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村 
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda

 


 

【インフォメーション】

オリジンお笑いライブ喜笑転決 Vol.285

日時:12月28日(土) 18:30開場/19:00開演 
会場:那覇市ぶんかテンブス館4階テンブスホール  (マップはこちら)
料金:前売り・当日共に中高生・一般1500円/小学生1000円/未就学児無料(膝上)
出演:こきざみインディアン、ベンビー、ノーブレーキ、リップサービス、じゅん選手他オリジン芸人
お問い合わせ:オリジンコーポレーション ☎︎ 098-866-6118
公式サイト==> http://origin-oze.com/

よしもと沖縄花月フライデーナイトライブ(YOFライブ)「よしもと-Uchinah-ランキング」

日時:12月13日(金)19:15開場/19:30開演
料金:前売り・当日ともに1000円 
ゲスト:マテンロウ
内容:よしもと沖縄芸人全組出演!お客様の投票でランキングが決定します!
会場:【よしもと沖縄花月】
那覇市前島3-25-5 とまりんアネックスビル2階 (マップはこちら
お問い合わせ:098-943-6244
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu/

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。