ネットと歴史修正主義 モバプリの知っ得[183]


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6月23日は慰霊の日でした。沖縄では毎年6月になると、戦争を振り返る特集や勉強会などが各地で開かれます。本来、戦争で亡くなられた方々の冥福をお祈りし、二度と戦争を繰り返さないことを学ぶ機会となっています。

一方、沖縄戦の戦前、戦中、現在にいたるまでの沖縄の歴史に関して、誤った情報がネットで拡散されることがたびたび起きています。

2017年1月に東京MXで沖縄の基地問題を特集した番組「ニュース女子」(DHCテレビジョン制作)では、米軍北部訓練場のヘリコプター発着場建設に反対する市民が日当を受けて活動しているなどと間違った事実関係を放送し、偏見や誤解をあおることになりました。その後、放送倫理・番組向上機構(BPO)は東京MXに「重大な放送倫理違反があった」と断じています。

この番組を巡っては、ヘイトスピーチ反対団体「のりこえねっと」の辛淑玉(シンスゴ)共同代表が、制作会社のDHCテレビジョンなどを相手に名誉を傷つけられたとして損害賠償を求めた裁判が進行中です。今も番組の動画がネット上には漂っていて、いまだに内容が真実だと信じている人がいる状況にあります。

こうした自分たちの国に都合の悪い歴史や政治問題を事実に基づかない形で書き換えることを「歴史修正主義」と呼び、世界中で社会問題になっています。沖縄は歴史修正主義のターゲットとなることが多く、誤情報やフェイクニュースがネット上に飛び交います。

困ったことに歴史修正主義はネットとの相性がよく、誰もが間違った情報を信じ込んでしまう可能性を秘めています。その代表例が「確証バイアス」でしょう。ネット検索を行う際、最初から答えありきで検索をしてしまいどんどん偏りが発生する現象です。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

例えば、何となく好きになれないタレントを「(タレント名) 嫌い」と検索し、「こんなに嫌いな人がいるんだ!やっぱり自分は間違っていなかった」と思い込んでしまうことです。実際は、「嫌い」より「好き」が多かったとしても、検索の方法次第で「好き」は出てきません。ネット検索は万能で正しい答えを教えてくれるような気になることがありますが、実際は私たちの心の声=見たい情報を見せてくれているということですね。検索の仕方次第で見える景色はぜんぜん違ったものになってきます。

さらに、検索履歴や「いいね」の傾向を踏まえて、個人が好きそうな情報を優先的に表示する「フィルターバブル」の構造もあります。また似た考えの人たちとだけ交流をし、どんどん意見が過激になっていく「エコーチェンバー現象」など、歴史修正主義と相性のいい仕組みが複数あります。こうしたネットの特性を逆手にとって、政治家が利用して「歴史修正」を先導したり、あおったりして、扇動家がお墨付きを与えていくという事象もたびたび起こっています。

ただ事実関係が間違っているという問題だけでなく、それが基になってヘイトスピーチやヘイトクライムにつながっていく恐れもはらんでいます。昨年8月に京都府宇治市の、朝鮮半島出身者とその子孫が多く住むウトロ地区で放火事件がありました。放火の罪などで起訴された被告は「韓国が嫌いだった」と話しています。

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ヤフコメとヘイトクライム モバプリの知っ得[177]
 

さらに米ニューヨーク州バファローで起きた銃乱射事件には、犠牲者の多くが黒人で、容疑者は自らを「白人至上主義者」と主張していて、ヘイトクライムの一つと捉えるべき事件です。

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銃乱射事件とヘイトクライム モバプリの知っ得[181]
 

「歴史修正」の正しくない情報を基に、宗教に関することや差別意識が増幅されていく恐れもあります。偏見や差別意識が流布した社会では、いったん戦争のような状況になってしまっても、国民がそれを支持してしまうことになりかねません。ロシアが侵攻したウクライナの情勢をみていても、戦意をあおることは行われています。

慰霊の日を迎え、過去のことを学び直すと同時に、今の社会で歴史がどう扱われていて、またネットはどう機能しているのか、そういうことを点検する作業も必要なのではないでしょうか。そうでないと過去が上塗りされてしまいかねません。

~ 解説 ~

※ 沖縄の歴史に関して、誤った情報がネットで拡散されることがたびたび起きています。 … ネット上で広がる「沖縄の基地反対派は日当をもらっている」というデマなどをテレビ番組として放送した「ニュース女子(17年1月放送)」は、BPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反があった」と判断されることになりました。しかし今なお「日当をもらっている」というデマは定期的に拡散されています。
 

 

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【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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