島の風と太陽の力で塩作り 高江洲製塩所 高江洲優さん


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自然の恵みいっぱいの塩

室温50度に迫る工房で釜上げ作業をする塩職人の高江洲優さん。自然の力を利用した製塩方法「流下式塩田」で濃縮した海水を、低温の平釜でじっくり焚き上げることでミネラル豊富な「浜比嘉塩」を作っている=高江洲製塩所 写真・村山望

昔ながらの風情が色濃く残るうるま市浜比嘉島。石垣に囲まれた集落を抜けた島の先に、製塩業を行う高江洲製塩所がある。風の力を使う製塩方法「流下式塩田」を利用し、100%天然の海水塩「浜比嘉塩」の製造を行うほか、塩づくり体験を通じて自然の大切さを伝えている。高江洲製塩所の社長であり塩職人の高江洲優(まさる)さん(51)に取材し、塩づくりへの思いを聞いた。

「沖縄の方言で塩を『マース』。ご飯を食べるときはちゃんと『いただきマース』って言ってくださいね!」

照りつける太陽の下、ときおり塩にちなんだ「塩ギャグ」を交えながら製塩方法を説明するのは、高江洲製塩所の社長兼塩職人の高江洲優さん。かつて県外資本の製塩所の社員として現在の場所で働いていたが、後に同社が事業縮小で撤退。「浜比嘉島の自然を生かした手作りの塩を作りたい」という思いから、閉鎖された工場を再利用し2009年に高江洲製塩所を立ち上げた。

「ここは民家や畑がなく生活排水や農薬の心配がない。太平洋からの潮の流れがあるので塩を作るのに適した環境なんです」と高江洲さんは誇らしげに語った。

自然と共生した製法

高江洲製塩所では「流下式塩田」と呼ばれる、昭和初期から中期にかけて四国や兵庫県で行われていた製塩方法を採用している。満潮時に取水した海水をポンプで汲み上げ、竹枝で組み上げた枝条架(しじょうか)に流す。海水が竹枝から滴り落ちるときに風の力で水分を飛ばし、残った海水を再びポンプで汲み上げる。この循環を繰り返すことで塩分濃度の濃い海水ができあがるのだという。

流下式塩田。海水が竹枝から滴り落ちるときに風の力で水分を飛ばしている

竹枝は、県外では孟宗竹(モウソウチク)という竹を使っているのだが、沖縄にはその竹が少ないため、およそ1000本もの竹ぼうきを代用。県外では高さ6メートルほどある枝条架だが、台風などを考慮し3・5メートル仕様にするなど、高江洲製塩所では本来の流下式塩田を沖縄式のものに復元しているという。

湿度が高い夏場は2、3日。空気が乾燥している冬は1日かけて循環を繰り返し、4倍から5倍まで濃度を上げ、濃くなった海水を工場の釜で焚き上げて製塩している。

「塩ってただ海水を焚いたらできるんじゃないの? って思われがちですが、昔から日本では塩分濃度を高めてから焚き上げる、というやりかたが主流なんです。同じ量の海水を焚く時に使用するボイラーの燃料は同じなので、どれだけ濃縮するかで塩の価値は変わってきます」と高江洲さんは語る。

自然の力を使っての製塩方法ゆえに天敵は雨。雨の予報があると作業を止める。もしも循環している途中で雨が降った場合は、初めから作り直しだという。

「台風が一番大変ですね。竹枝を全部外したり、飛んできた葉っぱの掃除もあります。でも自然の力でやっている塩作りなので『しおがない(しょうがない)』です。自然とうまく付き合っていきながら、感謝しながらやっています」

塩作りの楽しさ伝えたい

流下式塩田でできた濃縮海水は、室温50度に迫る工房内の平釜を使い、低温でじっくり焚き上げることで「粗塩」になってくるという。

粗塩には、ミネラルが多く含まれる「にがり」が絶妙なバランスで残る。

「にがりを切りすぎてしまったら、ナトリウムが多く含まれた辛い塩になっちゃうんですよ。逆に残し過ぎたら今度は苦味が出てくるのでその間をとるんです」と高江洲さんは言う。

高江洲製塩所で作られている商品。(左から)「浜比嘉塩」。「大粒塩」。「あらじお黒糖」

そうして出来上がった「浜比嘉塩」は、湿気に強く固まりにくい。粒が大きく、採れたての海藻のような風味とまろやかな酸味が特徴的だ。

高江洲製塩所では、製塩方法を学ぶ無料見学をはじめ、濃縮海水をじっくり焚いてオリジナルの塩を作る塩作り体験にも力を入れている。

「塩を知ることが塩選びにつながります。『この塩おいしーお(塩)』『塩つくり体験たのしーお(塩)』と言ってもらえると喜びもひとしおです」と高江洲さんはにこやかに話す。

高江洲製塩所の敷地内には天然海岸があり、塩作りに使用される海や風、太陽を直に感じることができる。浜比嘉島の豊かな恵みから生まれた塩をぜひ一度味わってほしい。

(元澤 一樹)

(右から)高江洲優さん、スタッフの高江洲美幸さん、多嘉良徳子さん、金城明菜さん

高江洲製塩所

うるま市勝連比嘉1597
TEL 098-977-8667

駐車場あり
見学無料

塩作り体験受付中(要予約)

(2023年7月20日付 週刊レキオ掲載)