「ローカルからグローバルへ:地方におけるスタートアップの育て方」 澤山陽平(500 Startups Japan, Managing Partner)〈2〉


「ローカルからグローバルへ:地方におけるスタートアップの育て方」 澤山陽平(500 Startups Japan, Managing Partner)〈2〉
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プレゼンで一番大事なのは?

 一番大事にしたのはピッチ(=プレゼンテーション)の練習です。プレゼンテーションというのは単なる投資家からお金をもらうためのプレゼンテーションではなく、話すと自分の中の考えとかアイデアがまとまってブラッシュアップされていく。6週間のプログラムでずっとプレゼンの練習をしていました。最初から最後までですね。すっとプレゼンの練習をし続けて、それで、その中で少しずつ磨かれていった。おもしろいのは、最初はスライド使わずにやるんですね。話してみる。プレゼンで一番大事なのはストーリーなんですね。なぜあなたはそのサービスをやるのか、なぜそのサービスをやっているのか。なんで今これをやるのか、もしかしたらそんなにいい課題だったりソリューションだったら、なぜ大企業がやっていないのか。そんなことをストーリーとして語れるようにする。それを特訓するのがピッチプレートです。

 副作用としておもしろかったのが、プレゼンの練習って一人でできないんですね。スタートアップ20社がそれぞれフィードバックしあう形が出てきました。終わった後にある企業に言わせると、どの会社のプレゼンでもできるというくらいに、お互いのことをよく知った。するとお互いで助け合いがもっと生まれてくる。この会社今こんなことをやっているから、きっとこういう人紹介したらうれしいんじゃないか、こういうことをやっているんだから、アドバイスしてあげたらいいんじゃないかというのが生まれた。
公開でいろんな人を呼んできてイベントをやったりして、最後に自分の渾身のプレゼン。最終的に250人くらいの投資家を集めて、その前で英語でピッチ。20社のうち18社くらいが英語でプレゼンしていた。それが神戸のプレアクセラレーターでした。

 それ支えたのがアメリカからきたメンバー。いろんな専門家を大量に連れてきたのが神戸の僕たちのプレアクセラレーターでした。神戸は非常にうまくいったので今これをどういうふうに横に展開するのかを考えています。まだ確定していませんが、たぶん来年もやる。来年こういう人たちが神戸のプレアクセラレーターのために、夏くらいに日本に来てくれる。だったら彼らを連れていろんなところに訪問しようと思っている。いろんな都市にメンタリングをする、そんなことを考えています。

「プレゼンで一番大事なのはストーリー」と話す澤山陽平さん=12月11日、沖縄セルラーパーク那覇

エコシステムって何だ?

 さて僕たちがなぜこんなことをしたのか? 神戸プレアクセラレーターは僕たちとしては成功。ではなぜこれを僕たちがしたのか。それはエコシステムをつくるため。そしてエコシステムを作ってユニコーンを生むためです。大きく成功する。世界を変えていくスタートアップ。世界を変えるユニコーンを生むためです。

 500 Startupsはベンチャーキャピタルです。ベンチャーキャピタルはお金を集めてきて、投資をして、そして増やすのが仕事です。でもベンチャーキャピタルって僕たちだけで投資をするだけじゃ意味がない。僕たちがスタートアップを投資するだけじゃなく、スタートアップを助けてくれる人を増やしていかないといけない。そのベンチャーのサービスを使ってくれる人と連携する大企業を増やさないといけない。ベンチャーの活動を支援する行政の人を増やさないといけない。投資と同じくらいエコシステム構築のための活動を大事にしています。

 エコシステムを作るって一言で言うと簡単ですが、実際には地道な作業。泥臭い作業をやっています。実際何をやるかっていったら、イベント、コミュニティー作り。月に2回はイベントしている。もう一つ大事なのは教育です。ベンチャーへの教育だけでなく、投資家にも行政にも教育しないといけない。ベンチャーとは何か、ベンチャーを育てるのはどんなことか。そういったエコシステム作りの活動は非常に大事にしているので、神戸の活動をしました。

ユニコーンになれるのは1%

 エコシステムがなぜ大事か。これよく使うスライド。ユニコーン。日本だと最近メルカリがユニコーンになりましたね。ユニコーンが生まれる確率はどのくらいか?答えは1%。

 実際に僕たち500 Startupsの1号ファンド・2号ファンドが投資した会社がどんな風に育っていったのか。投資先の約600社のその後の実際のデータです。投資した577社のうち、4分の3が作ったサービスを本当にお金を払って使ってくれる人がいるか検証できた、もしくはその後の成長のめどがついたというタイミングで死にました。ユニコーンまで成長したのは2・5%です。これがスタートアップです。

 新しいことを始めるのは、それは必然的に95%は失敗する。それを受け入れて乗り越える必要がある。だからエコシステムが必要なんです。だからエコシステム作って、たくさんの挑戦、たくさんのベンチャーをうまないといけない。1000社うまれて1社から3社くらいがユニコーンになる。僕たちはそこを支援する。最初を生み出すのは起業家が1人1人自分の中で抱えている思い、自分が感じた課題を解決するプロトタイプづくり、サービスを使ってくれそうな人に聞き込みをしてどういうものがいいのか。そこは自分でやらないといけない。

95%が失敗するけど支援

 その先、一番大変なところでありますし、実際つらいですが、100社投資して95社失敗するんです。でもそこを応援する。それが僕たちの仕事なんです。エコシステム、ベンチャーが100社のうちもっと生き延びるために、エコシステムもっと作っていくために、いろんな物を持ち込んでいく必要がある。エコシステムに必要なものはさまざまです。メンターシップ。レクチャーといったノウハウの部分。これは今日、まさにここにいろんな人が来てくれていますけど、どんどん人そういった経験を踏まえた人、成功した人たちが来ることによって、伝えることができると思います。

 大学や大企業の協力も必要です。大学も新しい事業を作る人、大企業もこの中から課題を抱えて自分のやりたいことをやる人を送り出す、もしくは支援する、人材を生み出すこと。人材を生み出すことをやっていかないといけない。あと面倒くさいところですが、資本政策というか法務とかファイナンスといったところは日本はまだまだベンチャーが生まれて間もないので、そういったところも僕たちは活動しています。

 ここに示したように、一つ一つ僕たちがアメリカから持ち込んだりしながらエコシステムに貢献していきたいと思っています。

世界を変える強い信念と楽観

 ただ、一番上にあります。このエコシステムで一番大事なのは、一番上のマインドセットなんです。

 僕たちはいつも、「シリコンバレーは場所じゃない。マインドセット」だと言います。世界を変えられる、自分たちこそが世界を変えれるんだという強い信念。そしてあとは楽観論。楽観的じゃないといけない。新しいことをすると失敗だらけです。新しいベンチャーすると壁にぶつかりまくりです。その後を乗り越えていく、でもきっとうまくいく、うまくやってやるという楽観的な気持ち。この2つの信念こそがシリコンバレーなんです。この2つの気持ちはどこにだって作り出せるはずです。シリコンバレーはそれが充満しているから特別な場所になっているんです。自分たちこそ世界を変えられる。自分たちこそが新しい未来を作れるんだという信念。これを自分たちの中に作っていく。これが一番大事なことです。

 Build your own Silicon Valley。自分たちの中にマインドセットを作っていく。そして挑戦をしましょう。新しいことを立ち上げて、そして失敗して。苦しむこともあるかもしれませんけど、そういった挑戦を僕たちは応援したいと思います。