新規事業を生み続ける「仕組み」と「仕掛け」 麻生要一(リクルートMedia Technology Lab室長)〈2〉


新規事業を生み続ける「仕組み」と「仕掛け」 麻生要一(リクルートMedia Technology Lab室長)〈2〉
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激変の時代、1社でやるのは限界

 リクルートの中でやっている新しいことを生み出す仕掛けや仕組みを、リクルートの外の起業家にも適用するということを最近始めています。

 僕たちがつくりたい未来の社会ってあるんですけど、その社会をつくろうとした時に、どこかの企業が一社でやろうとしても限界なんですよ。イノベーションのスピードが速すぎて、世界の変わるスピードが速すぎるからです。1人で何かやろうとしてもだめだからみんなでやろうと、いうのがコンセプトです。

 リクルートの中にいる社内起業家が僕たちの活動のコアなんですけど、リクルートの外の起業家の皆さん、才能ある若手を支援したいと思っています。それを掛け合わせて、さらには他の大企業や行政とも組み合わせることによって一発で社会を変えていく、みたいなことができないかと思っています。

 今日は沖縄に呼んでいただいてすごくうれしいです。才能をもつ沖縄の若い皆さんが集まってくれていると聞いているので、ぜひ皆さんと一緒に何かやりたいので、何かあれば話し掛けてもらえればと思います。

「見返り」なしのサポート

 みんなで一緒にこの国や世界をよくしていきたい、そんなことを考える中で僕たちが始めたのが「TECH LAB PAAK(テック・ラボ・パーク)」という仲間づくりの活動です。後半ではこれをご紹介したい。

 オフィスは東京都渋谷区の中心地で、東京のスタートアップシーンの震源地、中心地にあります。ここで「テクノロジーで世界をよくしたい」という若手のプロジェクトを応援しています。具体的に何を応援しているのかっていうと、全部無料で支援するんですね。審査をパスされたら6カ月入居してもらいます。入居するだけじゃなく、僕たちが抱えているメンターや、リクルートが持っている新しいサービスを生み出す「仕組み」みたいなものを注入する。本当に何の見返りもなく、ただ単に提供するという活動をしています。メンターもめちゃくちゃ豪華です。(LEAP DAYのスペシャルゲストたちを指して)ここにいるような人のご支援を受けながら、会員の皆さんの活動をアクセラレーター(支援)できるような活動をしています。

「新しい価値」を創造する

 始まって1年半ぐらいの活動なんですけど、これまで支援したプロジェクトは180チーム。人数にして約650人。開催したイベント数でいうと250ぐらい。例えばどんな人がいるかというと、VRでファッションブランドのイメージを再現するような新しいカタチのEコマースをやろうとしている新進気鋭のスタートアップ会社や、大学生がやっている英会話レッスンのマッチングをやっている学生企業など。SNSを活用したフォトプリントサービスはすごいスピードで成功してしまいました。これはイベントにおいてある写真プリントサービスで、ハッシュタグを付けてツイッターでつぶやくとプリントされるという仕組みで、そのプリントをインセンティブにツイートがめちゃくちゃ上がるというものです。そのツイート内容をマーケティング分析し、イベントマーケティングのサービスをやるような会社ですね。

 あと大学の先生もいます。仮想空間に弓矢が飛んでいくというような新しい形のデバイスをつくろうとしています。アートプロジェクトでは「Air BONSAI」があります。めちゃくちゃかっこよくないですか? これはキックスターターでめちゃくちゃお金が集まりました。あとは119&SOSアプリで、AEDを日本中どこにあるのかマッピングし、人が倒れた瞬間に一番近くの救急隊に連絡がいくような社会起業家もいます。

 これはすごく応援しているんですけど、介護施設で下の世話をするのがすごく負担になっている職員さん向けに、排泄検知をしてくれるようなシートを開発している人もいます。匂いを検知して、「あと15分後にこの人はウンチが出るよ」とか、「このパターンで行くと排泄が遅れているから15分間は何もないよ」とか教えてくれるものです。

 なんでこんな活動をやっているのかというと、リクルートが「新しい価値の創造を通じ、社会から期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな社会の実現を目指す」というミッションを実現したいからです。この時代、自分一人では無理なので、皆さんと一緒に手を取り合って、手を携えながらやっていきたい、そんなことを考えながらやっている活動です。

何かを成し遂げるためには?

「まず一歩を踏み出して、やり続けてほしい」と参加者に呼び掛ける麻生さん

 本当に最後にですね、今日は10代の皆さんが多いようなので、これから何かを成していくにあたって、僕が最も重要だと思っていることをお伝えして終わりたいと思います。

 この2年間で1000チーム以上、「何かやりたい」って人を見てきているんですね。ほとんど何も成せずに終わっていくんです。でもその中の一部の人は、何かを成していく。その差は何なのか。僕なりに一番大事なんじゃないかなと思うことは「強い原体験」です。やり抜けるかどうか、(前に登壇した前田ヒロさんのプレゼンにあった)「ジュガード」につながる強い原体験があるかないかというのはすごく重要なんですけど、伝えたいのは原体験ありますか?って話じゃないんです。

 原体験なんてないんです、誰にも。僕が伝えたいのは、原体験がなくても、原体験は持ち得るということです。「自分のおじいちゃんがガンで死んじゃったから医療をやろうと思いました」っていうストーリーを語ってくれる医療関係者って多い。そんな経験を持っていたら素晴らしいですけど、そうあるもんじゃない。

 でも、持っていない人でもそれなりの原体験は持てるんです。

「成し遂げる」唯一の方法

 原体験を持つ唯一の方法っていうのがあるんです。それは何かっていうと、何かを始めて、やり続けることなんです。例えば介護業界で何かやりたいと思ったら、介護業界の人100人に話を聞きましょう。100人に話を聞いて原体験が持てなければ200人に話を聞く。ず~と行動していると、ある瞬間に自分にしか見えない真実が見えたり、ある瞬間にすごく強い思いで応援してくれる人が現れたり、そんなものが積み上がっていくことで、やればやるほど逃げられなくなっていく過程を通して、それが原体験化していくということです。幾つも例を見てきています。

 なので10代の皆さんに、ぜひやってもらいたいなと思うことは、何かを始めてほしいということなんですね。きっかけは何でもいい。やりたいと思ったらまず一歩を踏み出してほしい。そして、その一歩をずーっとやり続けてほしい。ずーっとやり続けていったら、ある瞬間、(フェイスブックを開設した)マーク・ザッカーバーグなみの強い原体験に昇華することがあるんで、信じてやり続けてもらいたいと思います。

 今日出会った皆さんの中から、素晴らしい起業家が生まれ、そんな皆さんと一緒にこの世界をよくしていけるようなプロジェクトをやっていければと思うので、何かあればこの後、話を聞かせてもらえればと思います。

 ありがとうございました。

(次回は12月23日公開予定)

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