シリコンバレーの弁護士が語る 沖縄とアイデンティティー 吉田大(弁護士)


シリコンバレーの弁護士が語る 沖縄とアイデンティティー 吉田大(弁護士)
この記事を書いた人 佐藤 ひろこ

 沖縄から次世代リーダーを発掘・育成する人材育成プログラム「Ryukyufrogs(リュウキュウ・フロッグス)」。“想い”をカタチにしようと新サービスの構築に挑み続けた8期生9人を応援するため、シリコンバレーなど国内外で活躍する起業家や投資家ら8人のスペシャルゲストが12月11日の成果発表会「LEAP DAY」に駆け付けました。世の中に新しい価値を生み出し続ける8人の講演を全文書き起こしで順次紹介します。第6回はシリコンバレーで弁護士として活躍する吉田大さんです。

(次回は1月3日公開予定)

アイデンティティーとは?

 ハイサーイ グスーヨー チューウガナビラ(こんにちは、皆さま、ご機嫌いかがですか)。
 初めまして。シリコンバレーで弁護士をしている吉田大と言います。

 「Who Are You?」
 私は沖縄と全く反対の北にある北海道札幌市出身です。“どさんこ”の私がシリコンバレーに移動し、弁護士として仕事をして、今回沖縄に来させていただいている。何でそんなことが起こるんだろう。そんなことをみんなと一緒に考えていければいいなと思っています。

 シリコンバレーから、世界から、東京から、素晴らしい人たち(壇上のスペシャルゲストなど)が駆け付けてくれています。
 なぜか―。その一つに、日本で最もアメリカの存在感が大きい沖縄、そして、アメリカで暮らす日本人である私たちにとって、沖縄の問題はわれわれ自身の問題でもある。だから今日、サンフランシスコから来ました。

 「Who Are You?」
 海外に暮らしていると「あなたはどこから来たんですか?」「あなたは誰ですか?」「あなたのアイデンティティーとは何ですか?」と、そのような質問をよくされます。
アイデンティティーは主体性という言葉です。主体性ってどういうことだろう。みんな聞いたことがあると思いますが…。ではそこの一番前でノートを取っている人、ちょっと来てください。(1人の男性が登壇)

 吉田「名前は?」
 登壇者「ヤマウチです。」

 吉田「アイデンティティーって、どういうことだと思います?」
 登壇者「自分なりには帰属意識だと思います。ハイサイって言われて、ハイサイって答えることが帰属意識だと思います」
 吉田「ありがとう」
 (男性が降壇)

 アイデンティティーとは、自己が環境や時間の変化に関わらず、連続する同一のものであることです。例えば身長、見た目、性別、名前、家族、故郷。チョコレートが好きな人もいれば嫌いな人もいる。カレーが好きな人もいれば嫌いな人もいる。それぞれみんな、独自のアイデンティティー持っています。それがいい悪いじゃなくて、さまざまなアイデンティティーがあるからこそ、この世の中が色とりどり美しいものになっていく。

 アイデンティティーを意識することは、自己を認識し、自分とは違う他者を受け入れること。そういう意味では沖縄はいろいろな歴史、さまざまな出来事がありながら、自分たちを認識し、他者を受け入れる、ダイバーシティーというものを最も早く受け入れている場所ではないでしょうか。それが沖縄の素晴らしさです。

歴史を変える瞬間

 「How About USA?」
 そのように他者を受け入れるという点で、私が今住んでいるアメリカの話を少ししようと思います。
 ここに1枚の写真があります。去年撮られたものです。この写真から何が見えますか。そこの真ん中でバッグを抱えている人、ちょっと来てもらえますか?(1人の女性が登壇)

 吉田「お名前は?」
 登壇者「タイラです」
 吉田「タイラさん、この写真を見て何が見えますか?」
 登壇者「オバマ大統領が写っています」
 吉田「どんな表情ですか?」
 登壇者「真剣な表情…?」

 吉田「大統領ってアメリカを代表する人なので、たいていの写真は力強かったり笑ったりしていると思うんですが、こういう厳しい顔をしたオバマ大統領の顔を見たことありますか」
 登壇者「あまりないです」
 吉田「そうだよね。ありがとうございます」
 (女性が降壇)

 この写真は、非常に厳しいオバマ大統領の表情です。なぜこのような写真が公式な写真なのか。
 今から約60年前、アラバマ州の公営バスでは、前の方は白人しか座れない、後ろの方には黒人しか座れないという人種差別が平然と行われていました。そこである日、ローザ・パークスという1人の女性がバスに乗り、「私はこの席を譲らない」と言いました。その一言により、黒人による公営バスのボイコット運動が始まり、彼女は「公民権運動の母」と言われるようになりました。まさにバスの一席が歴史を変えることになりました。

「I have a dream」

 1961年、2015年から54年前、黒人と白人の間に生まれた子がオバマ大統領です。彼が生まれた1961年、アメリカにある21州で、異人種間の結婚は違法であり犯罪ですらあった。たった54年前です。

 1963年、2015年から52年前、次の写真を見てください。 

 一番端っこの人、ちょっと来ていただいていいですか?
 (1人の男性が登壇)
 
 吉田「お名前は」
 登壇者「オオカワです」
 吉田「オオカワさん、あの人見たことがありますか?」
 登壇者「キング牧師です」
 吉田「何をした人ですか?」
 登壇者「黒人が抑圧されていることに対して、意義を唱えた人です」
 吉田「素晴らしい。みんなのために日本語の文を読んであげてください」

 登壇者「私には夢がある。いつの日かジョージアの赤土の丘の上で、かつて奴隷の子孫たちと、かつての奴隷所有者の子孫が同胞として同じテーブルにつくことができるという夢。私には夢がある。私の四人の幼い子どもたちが、いつの日か肌の色ではなく人格そのものによって評価される国に住めるようになるという夢」
 吉田「ありがとうございます」
 (男性が降壇)

 「I have a dream」
 異人種間の結婚すら禁止されていた時代だからこそ、彼は「I have a dream」とスピーチをしたんです。

 2015年から48年前、あるカップルが恋に落ち結婚しました。しかし、彼らは警察から逮捕され、訴えられました。なぜかというと、奥さんが黒人であり、旦那さんが白人であるという理由からです。彼らは「そんなのおかしい」「アメリカの憲法に保障されている平等原則に反する行為だ」といって、最高裁までいって闘いました。その結果、今から48年前、異人種間の結婚を禁ずる法律は違憲であると(判決が下されました)。一つの愛が歴史を変えました。

ヒーローはどんな人?

 たった60年で世界は変わります。悲しい話ですらハッピーエンドにすることができます。そんなヒーローを最近、皆さんは見たことありますか?
 ヒーローってどんな人でだろう?

 自分には無理、ヒーローになれない、って思いますか? 大丈夫です。
 私のヒーローは、ここにいるフレッド・コレマツっていうおじいちゃんです。どこにでもいそうなおじいちゃんです。
彼が私のヒーローだという理由に、三つの数字を挙げます。「9066」「120000」「422」。
 これは「大統領令9066」「12万人」「第422連隊」です。

 1941年、日本とアメリカ、(コレマツさんの)二つの祖国が戦争をしました。真珠湾攻撃の後、数カ月でルーズベルト大統領は「Executive Order 9066」という大統領令に署名し、実質上、日系アメリカ人の強制収容が決まりました。1942年から46年までの間に、実に12万人の人間が強制収容所送られました。手荷物以外のすべての財産を失いました。

 「What Do You Do?」
 あなただったら何をしますか? ある人たちは「自分たちは日本人の血が流れていたとしてもアメリカ人だ。だから忠誠を尽くしている」として、アメリカという祖国にその証明をするために戦いました。日系アメリカ人だけで編成された第422連隊はヨーロッパ戦線に投入され、アメリカ史上最も多くの勲章を受けましたが、結果、死傷率314%、のべ死傷者数9486人でした。当時のトルーマン大統領は「あなたたちは敵と戦ったのみならず、偏見とも闘い、打ち勝った」と語っています。

 その後、ある人は(その大統領令は)平等原則を認めているアメリカ憲法に違反しているといって闘いました。1944年の判決で、残念ながら戦争の緊急性が当時の人種隔離を合法化したという判決が下ってしまいました。
 ただし、12万人収容され、闘ったのはたった4人です。正義の確率は「4/12万」。 

歴史は変えられる

 「Sad Story?」
 その話を聞いて悲しい話だと思われる人も多いかと思います。ただ、この話には続きがあります。

 戦争当時、日系アメリカ人の強制収容を推進したのはカリフォルニア州で知事をしていたアール・ウォーレンさんという人です。彼は後に連邦最高裁判所の長官になりました。そして彼の下で、アメリカの公立学校における人種隔離は違憲であるという、アメリカ史上最も重要だといわれる判決が下されました。
 歴史家が調べたところ、彼は日系アメリカ人を犠牲にしてしまったことにずっと良心の呵責を持っており、いざ自分が権力の座についたとき、彼にできることで歴史を正そうとしたんです。誰もが過ちは犯します。ただし、それを正すことができる。

 「Never Give Up」 
 実に1984年、彼(フレッド・コレマツ)の子どもたちの年代の弁護士たちが新たな証拠を見つけて、再審議をしました。その結果、彼は無罪判決を受け、当時のクリントン大統領から大統領メダルをもらいました。40年後のハッピーエンドです。

君だからできる!

 「Now What Do You Do?」
 これは僕がフロッグスに贈った言葉です。

 「琉球はすごいところだ」。それが証明されるのは世界に君たちが羽ばたき、君たちが琉球出身だと気付くときです。君たち1人1人にもできます。なぜならならば、札幌の片田舎で、ぱっとしない中学生だった私でもできたんです。シリコンバレーに来るために、沖縄からはるばる国境や文化、言語、人種を越えてきた。
 
 でもね、越えるべきなのは今の君たち自身です。
 自分たちのことだけでなく、他人のためには闘える。あなた自身の夢を持つ、何のために立ち上がるのか。黒人初の大統領になったオバマがバスの窓から見ていたように、あなた自身の心のバスからどんな未来が見えるか―。

 みんな誰かのヒーローになるポテンシャルを持っています。たった60年で、悲しい話すらハッピーエンドになります。

 では時を進めて2070年、今ここにいる若い君たちが老人になったとき、あなたのストーリーはハッピーエンドですか? そのために今日、今、何をするか。

 「I Believe In You」
 君なら、君だから、できる。

(次回は1月3日公開予定)

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