「もう、この会社辞めたい!」って思ったら読んでほしい りゅうせき商事社長 富原加奈子さん(3)DEAR WOMAN


「もう、この会社辞めたい!」って思ったら読んでほしい りゅうせき商事社長 富原加奈子さん(3)DEAR WOMAN
この記事を書いた人 座波 幸代

 女性のロールモデルが近くにおらず、男性管理職を見ながら「時間と勝負」の仕事をこなしてきた富原加奈子さん(りゅうせき商事社長)。とにかく、欲しかったのは「子どもとの時間」でした。そして、自身が経営者になって見えてきたこと、実践していることは…

子どもとの時間のため、PTA活動はお薦め

いつも朗らかな富原加奈子さん。落ち込むことはあるのですか、という質問に「そりゃありますよ。何をやってもうまくいかない時もある。ただ、自分がどんな時に落ち込むのか、どうしたら元気になるのか、自分を知ることが大事。そして浮かび上がるための、元気になるための手段を自分の中で多く持つことが大事だと思うんです」と答えてくれました=浦添市勢理客のりゅうせき商事

―これまで「あ~もうやめたい、もう無理~」なんて思うことはありましたか?

 そんなのはしょっちゅうありましたよ。でも、それは会社というより、夫の両親への申し訳なさと、やっぱり嫁という理想像とのギャップがあって。忙しい時ってコミュニケーションをとるのが難しいですよね。昔の人は「女性の仕事」というと、「経理の仕事で忙しいのは決算の時」というイメージがあったみたいなんですけど、年中忙しくしている私に「なんでこの人はこんなに忙しいの」って両親は思っていたと思います。私は「仕事だから、責任あるから」とやってきたけど、もっと違う方法がなかったかと考えることもあります。

 私はとにかく子どもと一緒の時間が欲しかった。でもままならなかった。それで、アドバイスと言えるのは、PTA活動に参加することです。PTAというと、「私は働いているから」と敬遠しがちですが、率先してやった方がいいとみんなに言っています。子どものことを考える時間、子どものために使う時間になる。そのために、会社の調整をする。ママ友ができ、子どものクラスの様子や先生の状況も分かるし、子どもが困ったときにネットワークができているというものに、ものすごく助けられました。仕事をしているからこそ、やってほしいし、働いている人がPTAに入るとPTAの動きが変わる。ママ友とは今もつながっていますよ。

2人の息子たちと。家族で出掛けたカナダ旅行で撮影。

 ただ、私がやりたかったけどできなかったのは、例えばクラブ活動に一緒についていくこととかですね。一生共通の話題になるでしょ、「あの時の試合はこうだったよね」みたいな。家族の共有する思い出はできるだけたくさんあるといい。生活ってなんのためにあるかって、そういうことのためじゃないかなと思います。

 「働くってなぁに?」「生活ってなぁに?」と考えたとき、そういうことが実は大事で、「仕事の方が絶対優先」ではない生活をできるようにしていかないとと思います。それが私たちのテーマかなと。仕事の負荷を凝縮して、知恵でもって、効率的な仕事にして、生産性をあげることですね。

 日本はそれが下手だと、ドイツ人のご主人がいる友人に言われました。ドイツは、日曜にデパートが休むそうで、「え、日曜ってかき入れ時でしょ」って聞いたら、「だってデパートで働いている人にも家族はいるでしょ。そんな時は、家族で公園に行って一緒に遊んだりとか、サッカーの試合に行ったりしないでどうするの」って言われました。

県経営者協会女性リーダー部会の米国視察。ワシントンやニューヨークで政府機関や企業を回り、米国における女性の労働環境について学びました

 価値観をがらりと変えなくちゃと思います。大切なものを大切にしているからこそ、いい仕事ができる。そういう人の生活が分かってこそ、みなさんの新聞の内容にもつながっていくのだろうし、私たちだってお客様がいて仕事が成り立つんだから、お客様に幸せになってもらうには、自分たちがハッピーでいないといけないと思うんです。

 私たちがヒーヒー言いながら働いて、人を幸せにできるかなんて、そんなアンバランスなことはない。「夜までずっと店を開けなきゃ、日曜も休んじゃだめ」という感覚を切り替えるだけで、だいぶ違ってくると思います。

 今、携帯電話のショップで店休日を設けさせてもらっています。ある店舗が休みの時は、その地域の別の店舗が必ず開いている状態にしてお客様には前もって連絡しています。お客様に迷惑をかけてはいけないので、あらかじめきっちりアナウンスさせてもらっています。

女性は真面目すぎる

社内報を担当していたころの富原さん。一眼レフのカメラを持って、写真教室にも通ったそう

-女性社員に「管理職をやってみない?」と言って断られたことはありますか?

 しょっちゅうありますよ。そして、いろんな人と話して行き着いたことが、「あんなふうには働けない」「あんなふうに働いたら家庭が持たないから無理」ということ。それはそうですよね。男の人の忙しさを女性がサポートしていて、それで女性が同じように働いたら、じゃあ家庭はどうするの、というのは当たり前の話。だとしたら「あんなふうには働けない」と言われる働き方がおかしいんですよね。実は、男性もそれで苦労している。

 「女性はもっと頑張らなきゃ」という話ももちろんあるかもしれないけど、人には適性があるから全員が全員そうじゃなくてもいい。ただ、管理職をやってみたいと思う人がいたり、適性としてすごく合っている人がいたりしても難しい、という環境がずしりとある。

 今は個々の時代で、価値観に合わせて商品やサービスを作ることが求められ、女性でないと分からないところがたくさんある。それを実現するためには、女性が提案できるようにならないといけない。女性が思ったことを発して、形にして、出せる練習が必要だと思います。判断する側に女性もいないといけない。男性だけだと分かりたくても分からないことも多い。そしてそれができた会社が私はすごく良い形になるのかなと、消費者に近い、社会に近い形になると思います。

りゅうせき商事のスローガン。「仕事」も「私事」もできるのが本物、とみんなで話し合って決めました

-そんな取り組みが社会を、価値観を変えていくことにつながりますね。

 そうそう。私、最近NHKの「朝ドラ」好きなんですよ。今の「べっぴんさん」とか「朝が来た」とか「とと姉ちゃん」とか。見ていると泣けてくる場面もあって。今の時代のそのままじゃないですか。あのシリーズは男の人に見てもらいたい。まさに今必要な話。朝ドラは絶対お薦め(笑)

  今、うちの会社のスローガンは「選ばれる会社をつくろう 『実践』 仕事も私事(しごと)もできる人 Be Professional」。「仕事と私事、どっちもできて本当のプロよ」ということ。経営会議のみんなで考えました。みんな気に入っていますよ。

 私もそうだけど、女性は真面目すぎる。真面目はもちろんいいことではあるけど、緩めたり、張ったり、バランスよく生活しないといけない。0か100か、白か黒か、今決着しないと気が済まないみたいな、自分で自分を追い詰めちゃうことがあるのも女性。私もそうだったから分かるんです。その点、男性はなんとな~く、バランスをとる。そういうことも大事だと思います。

 人をまとめるときもそう。あまり、きっちりかっちりやったら、中の人が大変ですよね。私もどちらかというと、そういうこともあったと思うので、男性からも女性からもどっちらも学ぶことは多い。人をまとめるって、いろいろな人がいるから、ある程度のスパンの中で少し緩さも持ちながら、目的はしっかり達成しないといけない。そこがマネジメントの難しさでもあり、面白さかもしれないですね。

〈プロフィル〉

 富原 加奈子(とみはら・かなこ) 1956年生まれ、久米島町出身。獨協大学卒業後、23歳で琉球石油(現りゅうせき)入社。取締役事業開発本部長、りゅうせき常務などを歴任。趣味は旅行と映画。最近はフランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパから、国内の温泉まで旅をする。好きな言葉は「初心忘るべからず」。入社後すぐに、りゅうせき創業者で参議院議員も務めた稲嶺一郎氏の秘書を3年半経験。「今になって稲嶺一郎さんの言葉をよく思い出します」

 

~ 聞き手 ~

 座波幸代(ざは・ゆきよ)  琉球新報style編集部。ダイバーシティーに興味があります。