“沖縄の相続問題”のエキスパート・尾辻克敏弁護士の事務所に、最近お父様を亡くされたという泉崎さんが、姉の良子さんと相談に訪れました。
お父様の遺産をどのように分けたらいいか教えてほしいようです。
牧志さん
尾辻先生。父が亡くなり、四十九日も終わったので、そろそろ父の遺産の話し合いをしようと思います。
父には、沖縄市の実家と那覇市のマンションがあります。私が実家をもらい、姉がマンションをもらうということで、姉とは話を進めています。
なお、母は父が亡くなる以前に他界しています。
姉・良子さん
私はこれで構わないのですが、弟の三郎も呼んで話し合わなくていいのでしょうか?
牧志さん
三郎とはウマが合わないので、できれば三郎は放っておきたいのですが。
全員で話し合わないと「無効」に
尾辻弁護士
今回は、「遺産分割手続」について、泉崎さん家族のケースにあてはめて説明します。
被相続人(本ケースでは「父」)の財産を、相続人でどのように分けるか決めることを「遺産分割」といいます。
遺産分割をするにあたり、まずは、遺言書が有るか、無いかを確認しましょう。遺言書があれば、原則として遺言書の内容に従って分けます。
牧志さん
遺言書がない場合には、どうするのですか?
尾辻弁護士
遺言書がない場合は、相続人が全員で話し合いをして、被相続人の財産を誰にどのように分けるかを決めます。
これを「遺産分割協議」といいます。ここでの話し合いは多数決ではなく、全員の合意で成立します。
姉・良子さん
私たちは、三郎ぬきで話し合いをしていますが、どうなりますか?
尾辻弁護士
「遺産分割協議」は、一人でも協議に参加していないと無効となります。そのため三郎さんも入れて話し合わないとなりません。
沖縄では、相続人が米国やブラジルなど海外にいたり、数世代前の相続手続きが未了で相続人が何十人になるケースもあります。
そういう場合でも、相続人全員と文書等でやりとりして協議を行っています。
“話し合い”どう進める?
牧志さん
では、相続財産はどのように分けたらいいですか?
尾辻弁護士
前回お話しした「法定相続分」を参考にして分けることが多いですが、話し合いで相続人全員が納得するならば、どのように分けても構いません。
例えば、泉崎さんに相続財産を全部分けると決めても構いません。相続財産が実家しかない場合などでは、トートーメや仏壇を継ぐ長男だけが実家を継ぐという形で、遺産分割協議をまとめることもあります。
ここは相続人間での話し合い次第です。
姉・良子さん
話し合いがまとまった後は、どうしたらいいのですか?
尾辻弁護士
「遺産分割協議」がまとまったら、「遺産分割協議書」という書面を作成しましょう。
「遺産分割協議書」は、不動産の登記や金融機関からの預金の払戻しなどに必要です。遺産分割協議書を作成するときは、内容の正確性を期すために弁護士に相談するといいでしょう。
「遺産分割協議書」を作成する際の注意点ですが、遺産分割協議の時点では判明していない相続財産が後から見つかるケースが結構あります。
そこで、遺産分割協議書には、「新たな相続財産が見つかったときは、法定相続分に従って分配する。」などの一文を入れるのをお勧めします。
家庭裁判所の力を借りる手も
牧志さん
話し合いがまとまらなかったら、どうしたらいいですか。
尾辻弁護士
遺産分割の話し合いは、家族間の感情などが絡み、うまくいかないケースが多々あります。しかし、諦めることはありません。その場合には家庭裁判所の力を借りましょう。まずは通常、家庭裁判所の「遺産分割調停」を使います。
調停とは、裁判官1名と調停委員2名が間に入って、それぞれの言い分を聞きます。そこで話し合いがつけば、調停調書という書面が作成され、遺産分割調停が成立します。調停調書の内容はおよそ、裁判をしたのと同じ効力があります。
遺産分割調停を利用する場合には、調停の中で複雑な主張などをしなければならないことが多々ありますので、弁護士に依頼することをお勧めします。
牧志さん
調停でも話し合いがつかないとどうなるのですか?
尾辻弁護士
調停では解決できないと判断されると、調停は不成立となります。そして、自動的に「審判」という手続きに移ります。
遺産分割協議や調停では、相続人の意向が反映され、柔軟に財産を分けることができますが、審判では、裁判官により相続分に基づいて強制的に財産が分割されることになります。
姉・良子さん
遺産分割は時間がかかると聞いたことがあるのですが、本当ですか?
尾辻弁護士
事案やケースにもよりますが、遺産分割は親族間のトラブルですので、そこには必ず感情が絡んできます。そのため紛争が泥沼化し、解決するのに数年かかるケースもあります。
ただ、沖縄ではお盆に親戚一同が集まるので、「お盆までには何とか解決しよう」と相続人も互いに協力して、お盆前に解決することがよくあります。
裁判などでもそうですが、「トラブルを抱えたまま年を越したくない」といって年末までに解決することもよくあります。
(毎月第3水曜日掲載)
― 執筆者プロフィール ―
弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)
中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。
相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。
~法律問題でお困りの際は、お一人で悩まず、私と共によりよい解決を目指しましょう!~
島袋法律事務所 弁護士 尾辻克敏
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